GD看板



1999年10月 第14回作品

タイム・イズ・オブ・ジ・エッセンス/マイケル・ブレッカー

1999年10月20日発売 ユニバーサル・ビクター(Impulse) MVCI 24017  税込み¥2,541

1.Arc Of The Pendulum
2.Sound Off
3.Half Past Late
4.Timeline
5.The Morning Of This Night
6.Renaissance Man
7.Dr.Slate
8.As I Am
9.Outrance
10.Lunations(Japan Only)

マイケル・ブレッカー/ts
ラリー・ゴールディングス/org
パット・メセニー/g
エルビン・ジョーンズ/ds(1,4,9)
ジェフ・ワッツ/ds(2,5,7)
ビル・スチュワート/ds(3,6,8,10)


「いつか再挑戦を希望したいエルヴィンとの共演」

冒頭からエルヴィンとの共演を持ってきたのは
やはり今回の作品の目玉かと思いきや、
マイケル自身がエルヴィンとの共演を望んだ訳ではなく、
そのアイデアはパットによるものらしい。
スケジュールが合わなくて共演が不可だと知ったときには
一度はほとしたが、アルバム制作がずれ込んでいったことで
共演しなくてはいけなくなったと述懐しています。

そう思って聴くからか、ここでのマイケルは妙に
窮屈そうにしている感じです。両者の持ってるタイム感が
別種の物という指摘は誌面でもされていましたが、
アドリブの部分でマイケルの方がエルヴィンがどうくるのか
注意深く聴きながら自分のソロを構成してる感じで、
どうも主客転倒しています。それでもソロの後半になって
自分のペースをつかんだ感じはします。

2番手のメセニーは俺はこれで行くという自然なソロを展開、
オルガンのラリーもマイペースにやってるようで、エルヴィンも
先を読んでパターンを合わせてる感じがします。
終盤になってようやくマイケルとエルヴィンのコンビネーションが
マッチして白熱きたかなと思ったらあっさりフェイドアウトしてしまった。
物足りないです。

もう一曲のエルヴィンとの共演は4曲目のパットのオリジナル。
パットは割とオールド・ライクなメロをしたテーマが好みのようですが、
しかしやたら音を沢山使う人です。隙間が残るのを嫌うのか、
技巧派の人ってどうしてこうも音を沢山連ねるのだろう。

パットがソロの先発をとるのですが、途中明らかにエルヴィンを呼んでる
感じで同じフレーズを繰り返す部分、しかしエルヴィンは涼しい顔で
流してしまいます。ここでは2番手のマイケル、やはりどうしたことか
他のトラックほどに精彩がない。所々エルヴィンが遊ぶのですが
両者が融合してる感じが希薄。
これも終盤になってようやくエルヴィンとマイケルが解け合ってきたかと
思ったらまたもやフェイドアウト。またまた物足りません。

(9)Outranceにも、なにか無理して作ってる感じがしてしまいます。
あとの二人のドラマーとの曲では余裕も感じられるし、快調なようです。
しかしそのとても饒舌な音の連なりがまるで手のひらですくった
水みたいに右の耳から左の耳へすり抜けていくのをどうすることも
出来ないです。

マイケルとパットに共通項があるとすれば、
ソウルフルな曲においてもグルーヴ感がほとんどないことでしょうか。
煌びやかで派手なフレーズはぽんぽん飛び出すのですが、
己のハートにぴんとこないこのもどかしさ。

両者ともにシーンでは絶大な人気と評価を得ている人なので、
きっと自分が変なんだといつも感じています。皮肉ではなく・・・。
それでも自分なりの評点を付けなければいけないのですね。
ここはずるいですが無難な線で四つ星にさせて下さい。
評点:★★★★(星4つ)

白岩輝茂
【apple Jam /Jazz PEOPLE】 / 【Blues PEOPLE】白岩輝茂さん)


 「マイケル・ブレッカーにオルガンは.....」

     エルビン、パットと豪華な顔ぶれにオルガン、と話題性は十分のアルバムである。
アコースティックにシフトした前の2作にはあまり面白さを感じなかったので、どの
ような方向転換を見せてくれるか期待十分だったが結果はやや残念なものであった。
 ゴツゴツした感触で熱気溢れる(1)を聴いたときには「これはっ!」と身構えた が、
その後が冴えない。楽曲の魅力がイマイチなためかサラリと、悪く言えばズルズルと
アルバムが流れて行く。期待したパットも存在感ではゴールディングス以下であり、
他にもっと適任のギタリストがいたろうに、と思う。ゴールディングスは健闘した が、
いかんせんサウンドが軽く今一つ迫ってくるものがない。
 前述の(1)以外で推薦曲は、情景が目に浮かぶようなバラード(5)、コンテンポラ リー
寄りの楽曲にマイケルらしさが映える(6)、マイケルとエルビンの一騎打ちが熱い (9)
などだ。

 マイケル自身のプレイはラフな部分が散見できるものの問題ないとは思うのだが、
アルバムのコンセプトそのものに疑問を感じざるを得ない。やはりマイケルといえば
ジャズとフュージョンをギリギリの所でハイレベルに両立させたコンテンポラリーな
スタイルが一番だ。マイケル、パット、エルビンと顔を揃えながら3人だからこそ、
というものが感じられず、また収録時間がやたらと長いので、最後まで集中して聴き
通すのはキツイ。結局、薄味の大盤振る舞いという印象が残った。
評点:★★★☆(星3つ半)

増間 伸一
Masuma's Homepage増間 伸一さん)


「今の感覚で楽しむオルガン・ジャズ」

 オルガンジャズでベースレスの編成。拍子を判別しづらいような、相変わらず
素直でないテーマの曲も見受けられます。マイケル・ブレッカーはそれぞれ3人
のドラマーの個性に合わせて演奏しているようです。パット・メセニーも全面的
に参加して、あちこちでいいソロを残しています。今回はバッキングにもセンス
の冴えを見せています。
 1、4、9曲目はエルヴィン・ジョーンズのドラムですが、ドラムに合わせて
曲が作られている感じで、気を使っているな、という印象。1曲目からオルガン
ジャズが強力に展開し、後半ドラムソロもあって盛り上がるのですが、フェード
アウトが惜しい。それぞれ曲の終わりまで聴いて、おお、このノリはスゴい、と
思いました。特に9曲目はこのアルバムのクライマックスで、後半にエルヴィン
とのデュオでこれでもかという演奏を楽しめます。
 ただ、今回気に入ったのはむしろビル・スチュワートのドラムで、特に3、6、
10曲目。彼のドラムは何となくチープでいい感じ。スネアの使い方やリズムが
個性的だと思います。方向性は変わってしまいますが、どうせなら彼だけの参加
でも面白いアルバムが作れたのでは?
 バラードも5、8曲目にありますが、サックスもギターも美しいけれどハート
にせまってくるものがもう少し欲しいかなあ、という思い少々。
 さて、ボーナストラックがマイケル・ブレッカーのお気に入りなのかどうか。
この曲の大半の部分は6拍半(8分の13拍子?)の変拍子。マニアックなので
涙をのんでオクラ入りにしたと、個人的に推測しています。今までの彼らしくて、
私はこういう曲、好きです。
 けっこう良いアルバムたと思うのですが、オルガンジャズとの相性となると、
はっきりした音色とフレーズを持ったメカニカルな感じのプレイヤーなので好み
が分かれるところ。これだけのメンバーが揃っていて、アルバムを通して聴いて
エモーショナルな部分への訴えかけがいまひとつなのもちょっと気になります。
ただ、個々のプレイヤーの演奏あるいは個々の曲という点では、聴く価値のある
アルバムだと思います。
 ラリー・ゴールディングスとビル・スチュワートの演奏は、「ハンド・ジャイヴ
/ジョン・スコフィールド」(Blue Note)('94年)でも聴くことができます。
評点:★★★★(星4つ)

工藤 一幸
ジャズCDの個人ページ工藤一幸さん)

「テナーのヴァーチュオーソらしい」

 我ながら嫌味なキャッチだ。事ほど左様に傑出したプレイではない。そもそも
筆者は転向を歓迎しない質で、転向後の彼の仕事が後進に絶大な影響を及ぼした
スタイルを控えるに値する程のものとは思えない。切れ味の鈍った彼が面白いか。
時に激しいところを見せるが(‡@‡H)垂れ流し感が強く計算ずくの白々しさが漂う。
やはりコンテンポラリー、ファンキー路線で行って欲しかった。そういう意味で、
スピーディーな‡A、ファンキーな‡E、グルービーな‡Fが持ち味を発揮した快演だ。
これだけのメンバーが集まれば一定水準の作品が出来て当り前だが、予定調和と
デッチ上げ感も否めない。Goldingsは総じて好演だが無類のグルーブ感が薄目で
物足りず、Methenyは随所で流麗な歌心を見せるものの存在感は希薄。Breckerが
傑出した出来ではないせいか3人のドラマーとの交感に着目した論調を多く見る。
Elvinの参加曲では‡H、Wattsの参加曲では‡A‡F、 Stewartの参加曲では‡Eが快演。
‡B‡C‡Dは曲想が吸引力に乏しく出来映えも月並み、本作の評価を落とす因をなす。
贔屓目に見れば様々な可能性を探った試作品。結果を次作に活かして欲しい。
評点:★★★☆(星3つ半)

林 建紀
JAZZ DISC SELECTION林 建紀さん)

 

「不完全燃焼か」

 何回か通して聴いてみたが、なかなか体に染み込んでこない。
オルガンとギターのマッチングは良く心地よいサウンドなのだが、ブレッカーの
サックスが出てくるとやや違和感を覚えてしまう。
もちろんこのメンバーに対する期待が大きいからだが、全般的に
メセニーのギターがどうもおとなしく、ブレッカーももう一段弾けない。
 ポイントが絞れないので、三人のドラマーを使い分けている点に注意して
聴き直してみると、やはりエルヴィンは一番煽りたてるようなドラミング、
ジェフ・ワッツはスピード溢れる軽快感、そしてビル・スチュワートは
予想外のテクニシャンといった印象を受けた。
曲ではゴールディングスの‡A、メセニーの‡C、ブレッカーの‡Fが良く、
ケニー・Gのようなイントロの‡Dなどのスロー曲はイマイチの出来と思える。
また各所で話題になった日本盤のみのサービス・トラックだが、
いくらセールス・トークとはいえ意識的な誤訳はやりすぎだろう。
一番好きな曲を収録しないアーティストなど、誰も信用するはずがない。
 ところで原稿の下書きを終えてから、家人の出払ったのを良いことに
思いっきりヴォリュームをあげて聴いてみた。
この盤に限らないが、やはり大音量でないと伝わらない部分がある。
星3つのつもりだったが、音量を上げて半星プラス。

評点:★★★☆(星3つ半)

(STEP 片桐俊英)

 

ゴールド・ディスク入り口へ戻る


  制作者:片桐俊英  メールはste p@awa.or.jpまでお願いします


表紙に戻る自己紹介NEWSGD委員会新名盤/愛聴盤限定盤JAZZ LP日記スキー温泉リンク