やさしき伴侶を/ベニー・ウォーレス
1999年9月22日発売 徳間ジャパン(VENUS) TKCB 71680 税込み¥2,520
1.Nice Work If You Can Get It
2.The Man I Love
3.Who Cares
4.Some One Watch Over Me
5.I Was Doing All Right
6.How Long Has This Been Going On
7.It Ain't Necessarily So
8.I Loves You Porgy
マルグリュー・ミラー / p
ピーター・ワシントン / b
ヨロン・イスラエル / ds
このアルバムの封を切るとき何にどきどきしていたかというと、
あのガーシュインの美しいメロディをどの程度壊してくれてるのだろう、
という興味でした。ウォレスがガーシュイン集を作ったという、まさか
彼に限って綺麗、綺麗なアルバム作りをするわけが無いという確信と、
かといってまさか無茶なことするとも思えず、一体どう料理したのだろうと
いう好奇心で一杯でした。
さてそのウォレス、全曲で激しくブロウしまくっているかというと
それほどでもなく、本領発揮してるかなと思える瞬間はそれぞれ
ソロやテーマのいち部分。全体的には比較的情緒たっぷりな
歌い回しが多く、誌面でドン・バイアスやベン・ウエブスターにも通じる
パフォーマンスと評されているのも聴いて納得でした。
とはいえ(2)(4)(5)で時折見せるフリーキーな姿こそが彼の魅力。
大胆に車線をまたいでまた帰ってくるようでスリル満点です。
特に(6)はテーマ部分から妖しい滑り出しでぐっときてしまいました。
マルグリューの伴奏に乗ってウォレスのテナーが気持ちよく歌い、
抜けが良いというか、自信たっぷりなブロウが印象的。
12分にも及ぶ(7)は文句無しこのアルバムのハイライト。
縦横無尽に跳躍しまくるテナーのひと筆書きのようなブロウに
ぐいぐいと引き込まれていきます。そういえばこの曲だけは
なんだかトレーンとマッコイ・タイナーの組み合わせみたいに
聞こえてきます。リズム・チェンジも効果的でその長尺さを
感じさせない力演となってます。
フリーキー・トーンで聴くガーシュイン。
「あったら怖い物」のひとつだったのですが、
ここまで見事に原曲の美しさを残したまま
やってのけたウォレスに脱帽です。
長らくジャズ・シーンから遠ざかり
映画音楽の仕事をしていたようですが、
これだけの人がジャズで生計を立てられなかったのか、
あるいは別な訳でもあったのか・・・なんにせよこれからは
コンスタントに作品を発表して欲しいなと思いました。
評点:★★★★★(五つ星)です。
白岩輝茂
(【apple Jam /Jazz PEOPLE】 / 【Blues PEOPLE】白岩輝茂さん)
ベニー・ウォレスというと、かなりトンがったテナー奏者という印象がある。
しかし最近はかなり円熟して丸くなってきたようだ。昨年出たAudioQuest盤は
トミフラと共にエリントンナンバーやスタンダードをしみじみ歌い上げた佳作で
あった。
だが本作では一つ一つのフレーズや音はウォレスらしいのだがガーシュイン集と
いうことを意識しすぎたためか少々奔放さに欠けており、またソロにおける
フレーズの組み立てがややワンパターンなので結果としてアルバム全体が平板な
印象に覆われている。特にミディアムテンポの曲にその傾向が強いように思える。
しかしサックスの音自体に力があるので(2)(4)(6)(8)あたりのスローナンバーに
おける説得力、表現力はさすがだと思わせる。
ミラーのサポートも優等生すぎるきらいはあるが(7)などではウォレスと共に熱気
溢れるプレイを聴かせている。しかしトミフラの方がまだまだ一枚上手であろう。
企画ものということもあり私が望むウォレスの姿とはやや異なっていて多少の
不満も残るが、新たな一面とその存在感を十分にアピールしたという点で評価に
値する。またウォレスに対し特別な先入観や思い入れのない人には、ちょっぴり
変わったガーシュイン集として楽しめるであろう。
評点:★★★☆(3.5)
増間 伸一
(Masuma's Homepage増間 伸一さん)
久しぶりの彼のアルバムはワン・ホーン作でガーシュイン集。ワクワクします。
素材と個性の相反する要素がどう出会うのでしょうか。1曲目のテーマで、おっ、
丸くなったなあ、などと思っていると、ピアノソロが終わってサックスソロで、
昔ながらの連続したアウトのフレーズが舞い降りてきます。なかなかやるねえ、
と思わず喝采。いちいち飛んだり跳ねたりしてひっかかるアウトのブロウ。その
滑らかでないところが個性的。アーチー・シェップのような熱さよりも、堂々と
していながらむしろもうちょっと温度感は低いかな、という印象。
2曲目でも印象的な曲を、途中でやりたい放題やっています。押さえにかかる
マルグリュー・ミラーも名人芸。サイドメンとしてはソロにバッキングに抜群の
威力を発揮します。クァルテットのメンバーはオーソドックスだと思いますが、
5曲目のピアノソロでサックスに負けずにアウトしたソロで応酬するところや、
6曲目のドラムスのマレットさばきなど、地味ですがけっこう渋いところです。
クライマックスは12分台の7曲目。好サポートのバッキングにのりながら、
堰を切ったように溢れ出るサックスのフレーズで、比較的おとなしい他の曲の
少々もの足りなかった部分を解消させてくれました。
で、歌心の部分。勝負はタイトル曲の4曲目、あるいは6、8曲目のバラード
でしょうか。オーソドックスに吹きこなすプレイは見事。しばらく携わっていた
映画音楽の仕事を経た今だからこそ、という想いがあります。サックスのまわりに
息づく空気感も感じられ、あえて「円熟」と、言わせてもらいます。アルバムの
ラストなど、思わずグッときてしまいます。メロディに関して言えば、どの曲も
元々はメロディアス。このアルバムではやや押さえ気味なのですが、それでも
奇妙にも聞こえるフレーズで、このアルバムに好き嫌いが出るのはやむを得ない
事かも知れません。だまされたと思って5回位繰り返し聴いてみて下さい。何?
だまされた?
マスタリングにバーニー・グラントマンのクレジット。音も保証付きです。
評点:★★★★☆(星4つ半)
工藤 一幸
(ジャズCDの個人ページ工藤一幸さん)
前作も5年ぶりの復帰作だったが、それ以前の諸作に比べ肩の力が抜け歌心に
溢れた快作であった。本作も円熟の境地と喧伝され期待が高まった。果せるかな、
テーマ提示は須く期待を抱かせるに充分だが、決まったように捻じ曲がるソロは
概ね予測可能で驚きと閃きに乏しい。個性と異形、覇気と気負い、鈍化と円熟を
取り違えてはいけない。円熟のバラード集?では、前作のバラード吹奏を凌ぐと
言い切れるか。"It's the Talk of the Town"や"If I
Lose"を一聴されるとよい。
@ABは屈折の必然性と美学が感じられない。歌のつもりかも知れないが音痴だ。
CEはテナーの伝統を最も感じさせる。ストレートに歌い上げ、屈折も曲想から
逸脱しない。今一押しを欠き月並みともいえるが。DFは屈折が曲想にすんなり
はまった。覇気迸るFは白眉。Gはバラードの鑑のような吹奏で男の色気が漂う。
珍しくピアノと組んだ一作だが余計に思える。Millerは巧みだが知が勝るせいか
決定的魅力を欠く。Washington、Israelは堅実が手柄。本作、幸いにも尻上りに
よくなる。@B3.0、AE3.5、CD4.0、FG4.5、平均3.75。次作が楽しみ。
評点:★★★3/4
林 建紀
(JAZZ DISC SELECTION林 建紀さん)
まず初めに不勉強ぶりを白状すると、ベニー・ウォーレスをちゃんと
聴いたのは本作が初めてである。かなり以前にちらっと聴いた程度なので、
過去の作品との比較ができないのが我ながら悲しく残念でもある。
個性的なテナーとの知識はあったのでやや身構えて聴きだしたのだが、
予想よりもずっと普通な感じの演奏にやや肩すかしを食った。
テナーの音色は、ライブで何度も聴いている高橋知己に良く似ている。
たしかにフリーキーなトーンが随所に出てくるが、アーチー・シェップの
下品さ(もちろん肯定的な意味での)とは異なり、お行儀が良い。
これにはマルグリュー・ミラーのピアノが大きく影響しているのだろう。
バッキングでもソロでも常に美しく、これを悪く言えば予定調和的だが、
作品の品位向上に貢献している。またベースとドラムが堅実な
バッキングに徹しているのもそれを助長している。
ライナーノーツにスチューダーの2トラなど録音機材が詳細に
記載されているように、艶やかなテナーの音も魅力だ。
以上の点から、ベニー・ウォーレスという強烈な個性はやや薄いが、
ワン・ホーンのバラード・アルバムとして良くまとまったアルバムに
仕上がっていると思う。
評点:★★★★(星4つ)
(STEP 片桐俊英)
制作者:片桐俊英 メールはste p@awa.or.jpまでお願いします