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1999年6月 第11回作品

オルフェ/ロン・カーター

1999年6月16日発売 東芝(somethin’else) TOCJ 68042  税込み¥2854

1. Saudade (Ron Carter)
2. Manha De Carnaval (Maria-Bonfa)
3. Por-Do-Sol (Ron Carter)
4. Goin' Home (Dovorak-Carter)
5. 1:17 Special (Ron Carter)
6. Obrigado (Ron Carter)
7. Samba De Orfeu (Maria-Bonfa)

ロン・カーター/ b
ヒューストン・パースン / ts
ビル・フリゼール / g
スティーヴン・スコット / p
ペイトン・クロスリー / ds
スティーヴ・クルーン / perc


「ロンの制作意図が充分に伝わってくる快演、快作」

一曲目から、このアルバムの制作意図が明快に伝わってくるような
美しくも情感豊かなオリジナル。ヒューストン・パースンの切なげな
テーマからやや雰囲気をチェンジしたビル・フリゼールのソロに引き継がれ、
またヒューストンに戻されたのち、スコットのピアノがロンの意を汲んだかのような
リリカルな旋律をシングル・ノートで綴る。

誌面やライナー等を読んでいると、この作品でドヴォルザークの「家路」を
ボサノバで演奏していることにスポットが当たっているようですが、
私にはこのアルバムの価値はこの一曲目のオリジナルで
決定づけられているように感じます。

普段はオルガン・バンドでファンキー路線を行ってるという
サックスのヒューストンにとっても、こういうアプローチの
ジャズは新鮮だったのか、彼のプレイの随所に喜びが
溢れているように感じます。(2)は「黒いオルフェ」として
よく知られてる曲ですが、この曲での彼の真っ黒な
フィーリングのサックスが妙にマッチしていて、
ありがちなボッサ=ジャズにはまり込んでしまうのを
防い だ感があります。その辺はフリゼールひとりでは
なし得なかったでしょうから、ナイスな人選だったと思います。

本物のブラジル・ミュージックをここではやっているのだと
言っているロン・カーター本人は何と思うか知りませんが、
私はこの作品をボサノバの手法を借りた純粋な
ジャズ作品としてこれは大成功した1枚だと感じました。

評点:★★★★★(星5つ)

白岩輝茂
【apple Jam /Jazz PEOPLE】 / 【Blues PEOPLE】白岩輝茂さん)


「久しぶりに聴いた心地よいアルバム」

 ロン・カーター初のボサノヴァ・アルバムだそうです。有名な曲だけでなく、
オリジナルが半分以上。こういう姿勢にニンマリきました。
 どの曲も印象的なメロディなのですが、特に1曲目はオリジナルとは思えない
ほど美しい。抑制のきいた哀愁の漂う演奏がテナー、ギター、テナー、ピアノと
続き、泣けます。「サウダージ」という曲名もなるほど。2曲目は有名な、あえて
説明不要の哀愁系の曲。この曲のみならず、テナーのヒューストン・パーソンは
おおらかにメロディを唄い上げ、さらに歌心溢れるアドリブは、このアルバムを
ジャズとしても十分楽しめる要素にしています。3曲目は一転、明るい「日没」。
4曲目「家路」はご愛嬌?少々俗っぽい気も。5曲目はリズムが少々違いますが、
アルバムの流れとしては自然。ギターがブルースっぽい。6曲目もゴキゲンな曲。
 個人的にイチ押しなのが、ビル・フリゼールのギター。エフェクターの効きが
今回は弱いながらも個性的な音色で、それほどジャズのフレーズを弾くわけでも
ない。ギターの「モンク」と言う人がいるのも納得。最初から最後までソロに、
カウンターメロディに、バッキングにと、センスの冴えと存在感を見せつけます。
7曲目のギター、ベースとパーカッションでのトリオの演奏の時は、地味ながら
ベースのソロを盛り上げています。上手い。ベースはともかくとして。
 ジャズを含んだボサノヴァの、このアルバムの心地良さは全体的なバランスが
良いからでしょうか。そういう意味でロン・カーターは素晴らしいと思います。
ギターで好き嫌いが分かれるかも知れませんけれど、私は1−2曲目で「買い」
でした。久しぶりに心地よいアルバムに出会いました。

評点:★★★★☆(星4つ半)

工藤 一幸
ジャズCDの個人ページ工藤一幸さん)



「気軽に楽しめるイージーリスニング・アルバム」

ヒューストン・パーソン、ビル・フリーゼルというかなり異色の顔ぶれを擁した
ボサノヴァアルバム。
パーソンといえばファンキー、あるいはグルービーといったイメージが強いわけ
だが、ここではアルバムコンセプトにそったムーディーな演奏に終始している。
しかし、そのどっしりとした音色は紛れもないジャズだ。
一方フリーゼルはECMへのリーダー作など、ちょっと白っぽい印象だが、これ
もまた演奏に溶け込んでおりあまり違和感がない。

というわけで、注目した二人は思ったより印象深いものではなかった。では何が
印象に残ったか?S・スコットのプレイである。アップテンポでは躍動感に溢れ、
ミディアムではしっとりと、ソロにバッキングに、アコピにエレピに素晴らしい
活躍で、時にチック・コリアを彷彿とさせる(唸りはキース?)。

曲では弾むような(3)と明るくノリの良い(6)がおすすめできる。全体的にロンの
オリジナルの方が出来が良い。肝心のロンは(7)を除くとほとんど演奏では存在感
がないが、いい曲を書いているのでヨシとしよう。

所謂ボサノヴァというよりは、イージーリスニング・ジャズとしての性格が強い。
典型的ボサノヴァを期待するとやや肩透かしを食うかもしれない。だからといって
ジャズ的スリルがあるわけでもない。そういった意味でやや面白みに欠けるかも。
しかしイージーリスニング的ジャズとしては、アルバムのまとまりも非常に良いし
完成度も高い。これからの季節、肩肘張らずにリラックスして聴くには最適だろう。
GDとしては相変わらず物足りないが、佳作くらいの評価は与えたいと思う。

評点★★★★(星4つ)

増間 伸一
Masuma's Homepage増間 伸一さん)


「初夏の微風そよぐ爽やかな佳作」    

Ron Carterと聞いて意気消沈したがBillFrisellが参加、これは聴き逃せない。
希な美曲‡@を始め自作(‡B‡D‡E)が断然よく、お馴染みの‡A‡C‡Fは工夫が足りない。
Personが新生面を拓いたとして評価する方が多いが、屈託なく吹いているだけで
真の抒情に欠ける。Joe Lovanoで聴きたかった。Frisell はソロにバッキングに
特異な感覚を見せるが新奇さはない。アンサンブルでFrisellとScottがぶつかり
片方が余計に思えるところも散見される。Carterをヴァーチュオーゾと呼ぶのは
如何なものか。閃き、技巧とも奏者としての衰えは隠せない。今は音楽家として
評価すべき人だろう。彼へのインタビューで構成したライナーは、その音楽観と
本作の意図を知るには格好の読物だ。音楽はともかく好ましい人物に思えてきた。
ジャズやボサノヴァの醍醐味を求めてはいけない。各人のソロは物足りない面が
あるもののユニットの一体感は上々、優美で洗練されたサウンドを愛でる一作だ。
仕掛は複雑だが響きは自然で聴き流して愉しい。LP並みの収録時間も有り難い。
聴後の印象は薄いが聴いている間は心地よい。それ故なくても困りはしない。

評点:★★★★(4ツ星弱)

林 建紀
JAZZ DISC SELECTION林 建紀さん)


 

「爽やかさとは一味違うボサノバ」

 ロン・カーターについてはベースの巨人とか神様と言った世評にもかかわらず、
個人的にはリーダー作もサイド作にも愛聴盤がない。
ベースの音色がどうも軽くて、腹にズンと来ないのが気に入らない。
そんな訳で今回のボサノバ・アルバムもさほどの期待を持たずに聴いた。
ところが、一曲目でヒューストン・パーソンのけだるいサックスとフリゼールの
奇妙な味のギターに耳を奪われた。聞き慣れた”黒いオルフェ”もギターが
新鮮みを出している。全体を通してフリゼールが主役のような活躍ぶりで、
スティーヴン・スコットのピアノもギターとの絡みがおもしろい。
かの有名な”家路”は残念ながら斬新なところが感じられなかった。
かえってロン・カーターのオリジナル曲の方が美しく、特に1曲目と5曲目は
完成度が高いように思えた。
ズシンと来ないベースも、普通のジャズ?よりは気にならない。
ただ最後の曲のように長いベース・ソロはやや単調で物足りない。
アルバム全体としては爽やかなボサノバといったイメージとはやや異なり、
ロン・カーター独自の美意識による音楽を作り上げたようだ。
総合評価はややおまけ気味の星4つ。

評点:★★★★(星4つ)

(STEP 片桐俊英)

 


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  制作者:片桐俊英  メールはste p@awa.or.jpまでお願いします


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