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1999年5月 第10回作品

love/ティル・ブレナー

1999年5月19日発売  ポリドール(Verve原盤) POCJ 1442 税込み¥2,548

1. Where Do You Strat
2. What Stays
3. Our Game
4. Brazil
5. Ich Hab' Noch Einen Koffer In Berlin
6. We Fly Around The World
7. I fall In Love Too Easily
8. Here's That Rainy Day
9. Time Will Tell
10. I Thought About You (日本盤ボーナス・トラック)

ティル・ブレナー/ tp,flh,vo
フランク・カステニア/ p,el-p
チャック・ローブ / g
ティム・レフェーブル/ b
ウォルフガング・ハフナー / ds
デヴィッド・チャールズ / per.他


「なぜか印象に残ったボーナス・トラック」

 今回は少々困りました。じっくりと、ゆったりしたバラードを通して聴いている精
神的余裕がありません。ヨーロッパ的な甘さ、というものを感じますが、ボーナス・
トラックを除いてもう少しスリルが欲しい気も。私の好きなECMレーベルのジャズ
と比較してみると、ECMの場合は静かな中にも聴く側にスリルと緊張感をある
程度強いていて、甘さはほとんどないと思います。それが私の嗜好と言われれば
それまでなんですけれど。
 トランペットで彼独特のミュート奏法の曲が1、4、6曲目。その中で1曲目は
けっこう印象に残った曲。しかし、この奏法の世間での高い評価とは裏腹に、吹く
時のチリチリいう音(ノイズ)がちょっと気になります。音色で聴くならフリューゲ ル
ホーンの曲の方でしょうか。
 ヴォーカル曲の3曲目はスローなジャズ。ただ、これを上手いというのかどうか。
6曲目などはジャズのヴォーカル曲というより、マイケル・フランクスのようなシテ ィ・
ポップスの曲ととらえる方が自然かもしれない。これはこれで好みではあります。
 その歌心と確かなテクニックは分かる気もするのですが、せめて10曲目のボー
ナス・トラックのような曲がもっとあれば...。特に4曲目はもっとゴキゲンなテ ンポ
の速いラテンナンバーであってほしいと思います。ただ、メンバーの中でも、フラン ク・
カステニアーとチャック・ローブの演奏が、ちょっと渋めながら気に入りました。
評点:★★★(星3つ)

工藤 一幸
ジャズCDの個人ページ工藤一幸さん)


「極上のヒーリング・ミュージック」

ジャズになにを求め、何を表現するかは
プレイする側にも当てはまることだと思うので、
こういうアプローチのジャズを好んで演奏する人がいても
それは自然なことなんでしょう。
でも私は好んでこういう傾向の音楽を聴くことは余りないのです。
こういう傾向・・・つまりリラクゼーションぽい音造りの、
陰影を吹くんだ音世界のことです。
「余りない・・」と書いたのは、例外として
マイルスやアート・ファーマーは大好きだからです。

さて、このティルの作品を聴いて、まず感じたことは
ああ、これはこのページを書き終わったら
二度と聴かないだろうな、ということ。
音楽的には恐らく素晴らしいと思います。
でも私には感じる物は何も無かった。困った。

そうか、昔よく聴いた「クワイエット・ケニー」だと
思って何か書けばいいのか。
いや、それはやはり間違いだ。
再び、困った。

ん?でも困ることはないのだ。
自分の感じた評点を付ければいいのだから。

ボーナス・トラックの(10)に星半分おまけ。
評点:★★★☆(星3つ半)

白岩輝茂
【apple Jam /Jazz PEOPLE】 / 【Blues PEOPLE】白岩輝茂さん)


「方向性を定めれば、もっとよくなるだろう。」

 いきなりだが、まずこのトランペットの音。本当にこれでいいの?と思うくら
いにスカスカではないか。晩年のマイルスでももう少しキレがあった。これは彼
の個性なのか、また技術的な問題なのか、まだ結論は出ていない。

 あと、甘ったるいボーカル。これはハッキリ言って売りにするべきものとは思
えないのでやめて欲しい。無理にチェット・ベイカーのイメージを追う必要もな
いのだから。

 でもこのアルバムは繰り返し聴くうちに、徐々に心の中に染みてくる感じだ。
バラードアルバムという限定された条件の中で、単調さは否めないもののいろい
ろ工夫してバリエーションをつけようと腐心しているのがわかる。
(2)でのシンセとの絡みや(4)の気だるさも良い。(4)は本作のベストトラックだと
思う。前述の通りボーカルはいただけないが(5)(7)(8)(9)もなかなか味わい深い。
彼のペットの音はギターとのマッチングが良い気がするので(4)のようなボサノヴ
ァっぽいイメージでまとめれば、かなりいいものが出来あがるのではないか。

 まだまだ注文をつけたいところも多々あるが、基本的にバラード路線は合って
いると思うので更に方向性を定めていけば、今後に期待が持てる。その期待を込
めて半星オマケした。

評点★★★★(星4つ)

増間 伸一
Masuma's Homepage増間 伸一さん)


「21世紀のジャズを担うスター誕生」   

 未知の新鋭である。東司丘コレクションで鍛えたおかげで一向に怯みはしない。
開口一番、ハーマン・ミュートの響きに驚いた。お馴染みの剃刀の響きではない。
悪くいえばブレス洩れ、紗が掛かった唯一無二の響きだ。フリューゲルも空気が
思い切り吹き込まれている。優しさと温もりが醸成され、唄うようにバラードを
綴る本作に似つかわしい。クラシックに裏打ちされた確かな技巧の一端といえる。
スローからミディアムが中心で同工異曲に堕しかねないところ、創意工夫に富み、
瑞々しい感性とロマンチシズムに貫かれている。1曲1曲を云々してはいけない。
通しで聴いて流れに身を委ねるのが望ましい。豊かな音楽性は天敵クラシックの
ベースがあったればこそだろう。ChetBakerを健康的にしたようなヴォーカルも
上々だ。‡Iはファイト漲る快演で場違いだが、良い演奏には違いなく大目に見る。
27歳の新鋭がこれほど完成度の高い作品をものする、ジャズ本来の姿といいたい。
長身で二枚目、演奏良し唄良し、非凡な音楽性、また1人21世紀を担うスターが
誕生した。しかもドイツから出て来るとは。21世紀のジャズは期待してよい。

評点:★★★★☆(星4つ半)

林 建紀
JAZZ DISC SELECTION林 建紀さん)


 

「全編バラードはちとキツイ?」

 一ヶ月間が開いたせいか、どうにも筆が進まなくて困った。
先に届いた工藤さんと白岩さんの原稿に目を通したところ、
ほとんど私の思ったことが書かれていて、ますます困った。

 深い森を思わせる音色は、聞き慣れた多くのトランペッターとは
バックボーンの違いを感じる。
クラシックも勉強しているためか、音程などもしっかりとしているし、
いわゆるテクニック的には全く問題がなさそうだ。
またちょっとけだるいチェット・ベイカー風のヴォーカルにしても、
決して物まねではなさそうだ。
自作の6曲目などA・O・Rの名曲になりうるかもしれない。
ただ私としては、彼の歌にはJAZZを感じられない。

 このアルバムに問題があるとすれば、それは全編バラードの
構成にしたことだと思う。
もちろんそれは本人の意図によるものだが、私にはどうしても
途中で飽きてしまうのだ。
似たような構成のフレディ・ハバード「バラの刺青」は全7曲だったが、
あのくらいが限界のような気がする。
それというのも、おまけの10曲目は20分近い演奏なのに
ライヴの熱気が感じられて決して長いと感じないからだ。
途中にこんな演奏が何曲か入っていれば、アルバムとしての評価も
相当変わっていたように思う。
とか言いながらも、読書のBGMなどには重宝しそうな1枚。

評点:★★★☆(星3つ半)

(STEP 片桐俊英)

 


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  制作者:片桐俊英  メールはste p@awa.or.jpまでお願いします


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