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1999年2月 第8回作品

トラヴェリング・マイルス / カサンドラ・ウイルソン

1999年 3月 3日 発売 東芝EMI(BLUE NOTE)  TOCJ-66020   税込み¥2,548

1. Run The Voodoo Down (Miles Davis - Cassandra Willson)
2. Traveling Miles (Cassandra Willson)
3. Right Here,Right Now (Marvin Sewell - Cassandra Willson)
4. Time After Time (Cyndi Lauper - Robert Hyman)
5. When The Sun Goes Down (Cassandra Willson)
6 .Seven Steps (Victor Feldman - Miles Davis - Cassandra Willson)
7. Someday My Prince Will Come (F.E.Churchill - L.Morey)
8. Never Broken (wayne Shorter - Cassandra Willson)
9. Resurrection Blues (Marcus Miller - Cassandra Willson)
10. Sky And Sea (Miles Davis - Cassandra Willson)
11. Piper (Cassandra Willson)
12. Voodoo Reprise (Miles Davis - Cassandra Willson - Angeliqee Kidjo)
13. Francing (Miles Davis - Cassandra Willson)

Cassandra Willson - vocal
Lonnie Plaxico - bass
Marvin Sewell - guitar
Kevin Breit- guitar
Eric Lewis - piano
Mino Cinelu - percussion
And more person

Produced by Cassandra Willson



「行間に浮かぶ情景」

 久しぶりに浮遊感というものを味わいました。
カサンドラの構築する音の世界には空間的な拡がりと色彩、
それに時折吹いたりやんだりする風のような波動を感じ、
その原因が間の取り方にあるんだなと気付きました。

マイルス特有の、間で表現する手法がここではふんだんに
聴かれます。必然的にその隙間の方にイメージが拡がり
聴き手のまぶたには様々な情景が浮かんでくることになる。

カサンドラのインタビューでの発言を読むと、この作品に限らず
普段から間を大切にしている人のようで、それがマイルスの
影響から来ていることを認めている。

今回のアルバム・タイトルが示しているようにこの作品は
マイルスへのオマージュと言える内容ではありますが、
マイルスの変化し続ける姿勢に共感を感じ、また
マイルス・ミュージックの持つ間というものを自分の中に
取り込みながら変化し続けていきたいという彼女には
もしかしたら、マイルスでさえも到達し得なかった世界への
イメージが見えているのかも知れない。

(3)(8)(9)が特に素晴らしく、なかでも(9)は冒頭から
ドラマチックな展開を見せ、私にはこのアルバムの白眉に思えました。

こんな素晴らしいアルバムには滅多に出会えるもんじゃない。

評点:★★★★★星5つ

白岩輝茂
【apple Jam /Jazz PEOPLE】 / 【Blues PEOPLE】白岩輝茂さん)


「圧倒的な存在感のカサンドラ・ウィルソン」

  '80年代半ば頃にスティーヴ・コールマンらと先鋭的な曲を中心に歌っていた彼女は、
実はスタンダードやジャズメン・オリジナルを歌っても上手かったのでした。
ブルーノートに移籍してからいちだんと深みが増し、'96年のアルバム「ニュー・ムーン・ドーター」で
すごい世界を見せつけられ、いったい彼女はどこへ行ってしまうのかと思っていました。
今回はマイルス・デイヴィスへのトリビュートアルバム。
オリジナルも半分近くあり、表現されているのはまさに彼女自身の黒い(そう、まさに黒い)世界です。
そのサウンドは原曲に負けていないとさえ思えます。

 ギターは、むしろR&Bなどに近い感じでしょうか。
チューニングがゆるいような音程をハズしたような、独特な奏法が出て来る場面
(これがGreek Bazoukiという楽器か?)もありますが、マーヴィン・スーウェルの
ギターはとにかく渋い。
9曲目のエレキ・ギターの間奏を渋いと感ずるか、音程をハズした下手くそなギターととるか。
前者に感じられる方はおそらくこのアルバムを傑作と思われるのでは。
 2曲目にスティーヴ・コールマンが参加。相変わらず個性的ですが、
もっとアップテンポの曲で暴れまわって欲しかった気も。
4曲目はマイルス・バンドのライヴで何回も聴きました。
6曲目は7拍子の部分が小気味良い。7曲目も斬新なアレンジ。
10曲目は何とパット・メセニーが参加。'86年のアルバム「ポイント・オブ・ビュー」でも
この曲は演奏されていて、そちらはジャン・ポール・ブレリーのギターでした。
8、9、11曲目と好みの曲が続きます。12曲目など、遠きアフリカの血を呼び覚ます
現代の魂の歌とも感じられ、この曲で私はノックアウトされました。

 ジャズかジャズでないかという論点はさておき、彼女のヴォーカルの存在感は圧倒的です。
他では聴けません。「ニュー・ムーン・ドーター」の方も気に入ったら、どうぞ。

星5つ

評点:★★★★★星5つ

工藤 一幸
ジャズCDの個人ページ工藤一幸さん)


「素晴らしい作品であることは認めるが...」

今月のGDも評価が難しい一枚である。
ジャズボーカルをまったく聴かない私にとっては評価基準がなくて困ってしまった。
とりあえず聴いてみた感想は、一言”心地よい”であった。
とくにバックの演奏がどの曲も大変素晴らしくそれを聴くだけでも十分楽しい。
気に入ったのは(1)でマイルス役を演じるオル・ダラ。どちらかというとフリー系の
イメージが強い人だが、ここではアルバムコンセプトに沿った好演だ。
(2)で牧歌的な雰囲気を作り出すS・コールマンのアルトとマーヴィン・スーウェルも良い。
特にギターのスーウェルはアルバム全編にわたり重要な役割を果しており要注目。
力強いプレイを聴かせるロニー・プラキシコも印象に残った。
曲では(3)がベスト。爽やかなポップロックといった感じで心地よい。
(5)にも思わず体が揺れる。エネルギッシュな(6)、不気味な(9)などもオススメできる。
ただし(4)や(7)といった曲はマイルス・バージョンの方が数段魅力的。
全体的にカサンドラのオリジナルの方が出来が良い気がする。
じゃあ、このアルバムがGDに相応しいかと言われればちょっと待てよ、言いたい。
まず、誠に個人的意見だが、カサンドラの唱法が好きになれない。
やはり黒人ボーカルには声量を活かし高らかに、雄大に歌い上げて欲しい気持ちがある。
終始淡々と呟くように歌われると、少しキツイ。特に後半飽きが来てしまった。
ただしアルバムコンセプトを考えると、これはこれでピッタリなのかなとも思う。
あとどう聴いてももジャズアルバムとは言い切れないので、
GDにしてしまうことには少し抵抗が残る。

とういわけで、ジャズともブラックミュージックとも言える本作のクオリティは極めて高い。
しかし私の個人的な好みに合わないこと、GDにすることには同意できないことという
つまらない理由から、減点させて頂きたい。

評点:★★★★星4つ

増間 伸一
Masuma's Homepage増間 伸一さん)


「各論不感症なれど総論感銘」

 彼女の歌唱をまともに聴いたことはない。聴きもせずに苦手意識を抱いていた。
結論から述べよう。ダークでブルージー、立派にジャズ・ヴォーカルであるにも
かかわらず、一個のシンガーを聴く作品ではない。一個の"音楽家"を聴く作品だ。
恐るべく抑制され物足りなく思える歌唱も、作品のコンセプトに照らせば、これ
以上のものは思い浮かばない。また、曲単位では4ツ星前後にしか聴えないのに、
通しで聴いている間、とくに中盤以降は流れに身を委ねる如く心地よく、聴後の
充足感は5ツ星に値する。物憂げな歌唱と、フォーク、ブルース、フュージョン、
エスニック、純ジャズ等、多彩な楽想とカラフルなサウンドがイマジナティヴな
空間を形作る。音楽家として驚嘆すべき力量だ。もはやジャズを突き抜けている。
筆者の問題は、やはり曲単位では二三を除き(‡Iは圧倒的名演)感応しないことだ。
良し悪しと好き嫌いは別物ということだな。私的価値は低いが、史的価値は高い。
誉めているのか貶しているのか判らない評になったが、一聴の価値は充分にある。
最後に出谷啓氏の至言を掲げておく。筆者は選ばれなかった聴き手かも知れない。
"きき手も歌手をえらぶ権利があると同時に、歌唱もきき手を選ぶ場がある"

評点:★★★★星4

林 建紀
JAZZ DISC SELECTION林 建紀さん)


「恐れ入りました、女王様」

 昨年7月にスタートしたこの企画も、初めてヴォーカルを
取り上げることになった。
ヴォーカルものはCDを10枚くらいしか持っていない私にとって、
内心かなりの不安を感じていた。しかしこのアルバムを聴いてみると
実に堂々とした歌いっぷりで、そんな不安は吹き飛んでしまった。

 いたずらに声を張り上げることなく静かで、しかも力強い。
余裕綽々といった雰囲気がスピーカーを通して伝わってくる。
「MUSIC MAGAZINE」をはじめ、多くの音楽誌で
大きく扱われるのが納得できる。
狭い意味でのJazzにとどまらない、ブラック・ミュージックの
名盤と呼んでも良い出来と思う。
マイルス.デイビスに対するトリビュートといった要素は
ライナーノーツや評論家諸氏にお任せするとして、
(エレクトリック・マイルスは”聴かず嫌い”ということもあり)
カサンドラ自身のプロデュースが本作の大きなポイントに
なっていることは間違いないだろう。
多彩なゲストも適材適所といった感じで、特にギターの使い方が
素晴らしく、深みのある音楽を作っているようだ。
一番気に入った曲は6曲目の”SevenSteps”
綾戸智絵の「YOUR SONGS」でも印象的な一曲だったが、
このアルバムでもステフォン・ハリスのヴァイヴや
レジーナ・カーターのヴァイオリンが効果的に使われていて
大変味わい深く仕上がっている。

 とにかく今回はケチのつけようがなく、ゴールド・ディスクの
名に恥じない盤である。

評点:★★★★☆星4.5

STEP 片桐俊英

 


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  制作者:片桐俊英  メールはste p@awa.or.jpまでお願いします


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