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2001年2月 第29回作品

イン・マイ・ドリームス/ダスコ・ゴイコヴィッチ

2001年2月21日発売 徳間ジャパン(enja) TKCB 72074  税込み¥2,520

D・ゴイコヴィッチ

1.In My Dreams
2.St.Germain De Paris
3.Sequoia Song
4.Introduction
5.Skaylark
6.One Morning In May
7.All My Love
8.Little Theo
9.I Miss You So
10.Ballad For Belgrade
11.All My Love

Dusko Goykovich (tp,flh)
Bob Degen (p)
Isla Eckinger (b)
Jarrod Cagwin (ds)


「最先端を突っ走るピアノ・トリオ」

 このピアノ・トリオのアルバム、一言で言うと、「新しさ」かなと思います。1
曲目からいきなり複雑なビートに取り囲まれ、あれよあれよと言う間に有機的に
絡み合った音の洪水に流されて行くような感じ。とは言ってもくつろぎの部分も
あるようで、2曲目のファッツ・ウォーラーの曲は、リラックスして聴くことが
できます。比較的ゆったりした曲は、他には4、8曲目。それでも一筋縄ではい
かない感じ。2曲目以外はすべてオリジナルというのも彼らしい。
 不思議と典型的な4ビートというものが後ろに引っ込んでしまい、複雑に絡み
合って進んで行くトリオがそこにあり、以前のジョン・パティトゥッチとデイヴ・
ウエックルとのかっちりしたトリオともまた違ってアメーバ状かな、という気が
しています。実際はどうか分かりませんが、アドリブ一発と言うよりは、譜面に
された部分が多そうな複雑な曲ばかり。5、6、11曲目は、スパニッシュなど
彼ならではのフレーバーも。メンバーのテクニックもさすがの部分ですが、どの
曲もインパクトがある感じで一気に聴けました。キマるところの多さは随一か。
特に1、11曲目が好み。
 もう大ベテランでありながら、最先端を突っ走るチック・コリア。真正面から
勝負しているところがスゴいかも。一度耳にしておいて損はないピアノ・トリオ
のアルバムかな、と思います。ただし、誰もが聴きやすいとは限らないので念の
ため。今回はボーナストラックはマルでしたが、全体の収録時間は長め。
評点 :★★★★☆(星四つ半)

工藤 一幸
ジャズCDの個人ページ工藤一幸さん)


「中辛ピアノトリオ」

 最近のGDといえば初心者や大衆受けを狙った甘甘の作品、或いはスタンダードを
適当に料理したようなものがほとんどであったが本作は少々趣が違うようだ。まず
チック自身が若くタイトなリズムセクションに煽られシャープさを取り戻しており、
その硬質なピアノサウンドからは私の大好きな70年代ジャズの香りがするのである。
楽曲も(2)を除くとやや難解さの感じられるオリジナルばかりであるが、それが気軽 な
BGMというような聴き方は受け付けないテンションを生み出している。中でも複雑な
構成に緊張感と明るさも兼ね備えた(5)やアブストラクトな美しさが何とも70年代的 な
(8)が好きである。(2)は浮いてしまっていて余計だと感じた。
 私は(アコースティックトリオも含めて)ここ十数年のチックにほとんど興味も関心
もなかったが本作を聴いて少し見直した。彼にはピアノトリオが合っていると思う。
全編緊張感のある演奏が続くだけに75分は長すぎるが、GD選定にも納得できる中辛の
ピアノトリオであることは確かだろう。
評点 :★★★★☆(星四つ半)

増間 伸一
Masuma's Homepage増間 伸一さん)

 

「進行形の躍動感健在!」

チックというとその引き出しの多さに唸らされるタイプの一人なのですが
今回も一曲を除き全曲彼のオリジナルで構成されています。しかもフォ
ーマットをトリオに限定してのアルバム作りは彼にとっても取り組み甲斐
のあるテーマだったのか、自己のピアノで何を描くか相当に構想を練った
フシを感じました。一曲、一曲の完成度が非常に高いです。

もはや彼はジャズ界で大ベテランであるだけでなく、誰もが疑わないジャ
ズ・ジャイアンツに成り得た今もその精神は成長と進化と変化を求めてま
だまだ前進し続けているのですね。その気概に敬服しました。

アルバム・タイトルに象徴されている過去、現在、未来とは恐らく音楽家
としての自分の時間的な連続線は、これからも途切れることなく営々と
先へ伸び続けているのだという確信の現れだと感じました。実際そのタイ
トル曲の構成も、まずは過去をひとつの起伏を持って振り返ったあとに現
在の自分を改めて見つめ直している部分を経てそれが未来へのさらなる
手応えに繋がっていくようなイメージが伝わってきました。

個人的なお気に入りは#7の"The Chelsea Shuffle"で、ドラムのフィルイン
からすべりこむように入ってくるアンサンブルがとても有機的に結びついて
います。ピアノ・トリオはまさにリズム隊との共同体ですね。

評点: ★★★★ (四つ星)

白岩輝茂
【apple Jam /Jazz PEOPLE】 / 【Blues PEOPLE】白岩輝茂さん)


「円熟しつつも瑞々しい佳演」

本作はEnja復帰第1作。Bob Degen(p)、Isla Eckinger(b)、Jarrod Cagwin(ds)との
ワン・ホーン作。スタンダード2曲を除いて殆どが自作、何れも親しみ易い佳曲だ。
バラード集に見えて快活な演奏を交えるところは"Art Farmer / Art"を想わせる。
ヨーロッパのエレガンスが漂うバラード、壷にはまったスインガー、贅肉のない
吹奏は円熟のなせる技だが瑞々しい。聴後の印象は薄い。追加収録曲は余計。

評点:★★★★(星四つ)

林 建紀
JAZZ DISC SELECTION林 建紀さん)


「まさに夢心地のバラード集」

 昔の活躍ぶりを知らず近年の日本でのライブや録音ぶりから、てっきりもっと若い
世代と思いこんでいました。 今年満70歳を迎えるとはちょっと驚きでした。
ほとんどがオリジナル曲といっても、どれも優しいメロディーのうえ時折耳馴染みの
あるフレーズが借用されていたりして、とても聴きやすい作品でした。
バックの三人も初めて聴くプレイヤーばかりでしたが、全員腕達者のようです。
ことにピアノはソロ・バックともに素晴らしく、すっかり気に入りました。中でも2曲目の
「サンジェルマン・デュ・プレ」、5曲目「スカイラーク」は一際美しいピアノが楽しめます。
哀愁漂うトランペットの音色にぴったりマッチしています。
また録音の良さも忘れるわけにはいきません。低域から高域まで質感が揃っていて
ヴォリュームを上げたときはもちろんのこと、控えめでも各楽器が良い音で鳴ります。
久しぶりに和めるアルバムです。

評点::★★★★☆(星四つ半)

STEP 片桐俊英


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  制作者:片桐俊英  メールはste p@awa.or.jpまでお願いします
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