新名盤

2002年7月10日

 第4回

Arturo Sandoval"My passion for the piano"Sony Jazz

Arturo Sandoval (p) Dennis Marks (b) Ernesto Simpson (ds) Samuel Torres (pec) Ed Calle (sax)

1.Blues in F
2.Romantico
3.Departure
4.Esta trade vi Llover
5.All the things you are
6.Surena
7.Stella by starlight
8.Time before
9.Marianela says goodbye
10.D.A.S.S
11.Windmils of your mind
12.Blues en Fa
13.Island mood


「情熱的ラテン・ティスト」

ジャズを聴くにもバランスが必要だと最近つくづく思っています。北欧・東欧ジャズに
リリカル・プレイに個人的には飽きが来ている昨今。元気一発「ガツン」と来るものが
欲しいと思っていました。それに応えてくれたのがAlturoSandovalの「ピアノへの情熱」
です。Sandovalは初めてですが、元々はトランペッターです。その彼が余芸としてでは
なく、元々もっていた素養を初めてCDとしてまとめたという盤です。ミュージシャンが
ピアノを弾くというのはライナーにも書かれていますが、当たり前のこと。基礎として
そういうものがなければ本来の楽器の演奏にも発展性がないわけです。
Barney Willenの初期の盤でMilt Jacksonがピアノを弾いていたのは驚いたものですが、
別に驚くに値しなかった訳です。ジャズ喫茶のオヤジも楽器をやるべきだと寺島靖国氏
が言っていますが、ガッツ石松がパソコンをやるようなものとかは思いません。それは
ともかく元気の良い盤です。元気が良すぎて辟易する盤もありますが、これは硬軟織り
交ぜた中での元気の良さです。ラテンの香りがやはりいたします。そしてタイトル通り
情熱的です。Harold MabernとMichel Camiloの中間ぐらいの位置でしょうか"Stella ...";
もラテンぽく弾いているのは面白い。Sandovalのオリジナルが実に良い曲なのです。
"Departure"しかり"Surena""Marianela says goodbye"しかりです。ラテン・ロマンティズム
とでもいえば良いのでしょうか。中にはバンド・ネオン等が入ってもいいかなと思うような
曲もあります。Dennis Marksのベースから入っている"Windmile of your mind"は意外な
構成と旋律の展開となっていて絶品です。そして最後の"Island mood"の歯切れの良い
サウンドに思わず微笑む私です。

菅野 寛

Baker's Holidayへようこそ! 菅野寛さん)

 ベル・ザ・キャット!/藤井郷子
      (Onoff)(6月26日発売)

Bell The Cat!/Satoko Fujii(Onoff) - Recorded September 24, 2001.

Satoko Fujii(P), Mark Dresser(B), Jim Black(Ds)

1. Silence
2. Get Along Well With...
3. Slowly And Slowly
4. Confluence
5. Foot Step
6. Bell The Cat!
7. Champloo


「手応えの確かな現代フリージャズ」

 このところ話題になっていて、メジャー・マイナー問わず、かなりの数のCD
が発売されている藤井郷子。このメンバーでの録音は5作目だそう。いわゆる
硬派のフリージャズですが、ドシャメシャの場面があっても、その後に統率が
取れてまとまっていきます。メンバーはかなり強力で、反応は鋭いし、トリオ
での構築力はさすが。ピアノのフレーズにも非凡な才能が見え隠れしますが、
当然のことながら3人とも非凡です。ジム・ブラックのしなやかなドラムスも、
マーク・ドレッサーの超人的なベースワークも印象的。
 1曲目は15分台の大曲。出だし3分40秒あたりまでは静謐なやり取りで、
その後ドラマチックに緩急自在の展開を示します。そこでの素顔はバリバリの
フリー。場面展開ごとにトリオのサウンドが一体感覚でシフトしていきます。
2曲目は浮遊感のあるメロディとともにリズミカルにはじまり、中盤戦で急速
調の8分の7拍子の強烈なビート。メロディアスで、あたかも構築されたかの
ようにスムーズに展開していき、後半ベースとドラムソロが控え目ながら挟み
込まれている11分台の3曲目、静かな場面から情念がわき出てきてハードに
突入し、再び静かになる自由度の高い4曲目、哀愁を感じつつもスペイシーに
進行する5曲目、「猫に鈴をつけろ」というタイトル曲の情景描写的な音世界の
6曲目、アジアの民族音楽を連想させるような明るい7曲目。通して聴けば、
アルバムのドラマを感じることができるのでは。
 シリアスなフリージャズなので、このテのサウンドが嫌いな方にはオススメ
しませんし、聴く人を選ぶだろうと思いますが、彼女がなぜ人気があるのか、
このアルバムでも分かるような気がします。自由でかつ構築力のある、手応え
の確かな現代フリージャズ。大音量で聴きたいアルバム。

工藤 一幸

ジャズCDの個人ページ 工藤一幸さん)  

 

 
"Oscar Klein & Katie Kern / Pick a Blues"

2001 ドイツ制作 Jazz Point Records CD JP 1065
Recorded Aug. 2001

Oscar Klein (tp,cl,harp,g)
Katie Kern (g,vo)
Chris Nemet (p)
Jan Jankeje (double bass)
Heini Altbart (ds)


「欧州の土に育まれるアメリカン・トラッドの芽」

ディキシーランド・ジャズの大御所トランペッター、オスカーと、ブルースをこよなく愛する
多分ドイツの若い女性シンガー&ギタリスト、ケイティとの心温まる共演盤。共通の土俵
であるアメリカン・トラディショナルとスタンダードを挟んで、お互いの理解と尊敬が形に
なったため、孫と祖父くらいの年齢差を全く感じないのも素晴らしいです。ケイティがオリ
ジナルをトラッドっぽくやってるのに唸らされますが、一番驚いたのはアルバート・リーに
捧げた曲で本人顔負けの流麗なカントリー・ギターが飛び出すこと。他にもジャンゴに捧
げた曲ではあの甘いジプシー・ギターが再現され、単なるブルース好きの女の子ではな
いことを強く印象付けられました。ドイツのブルース・シーンって凄いのかも知れません。
ライヴ風に録ったせいもあってか、70年代のモントルー・ジャズ・フェスを思い起こすよう
なそんなリアリティも充満していて熱くなりました。

白岩 輝茂

【apple Jam /Jazz PEOPLE】 / 【Blues PEOPLE】白岩 輝茂さん)

 

Derek Bailey/Ballads
(2002 DIW/TZADIK)

Derek Bailey(g)


「シュールな美しさに満ちた異空間」

本作はTZADIK第3作。ギター表現の可能性を切り開いてきたDerekのバラード集だ。
知らぬ者とてないスタンダードが12曲(14トラック)、選曲までその場の即興では
ないかと思えるほどだ。これを前代未聞かつ説明不能なスタイルで切れ目なしに
インプロヴァイズしてゆく。スタンダードの新解釈などという次元を超えている。
解体と再構築というのともちがう。インプロヴァイズという行為というほかない。
出たとこ勝負ではない。個も全体も実に周到に組み立てられている。並々ならぬ
集中力だ。フリーと敬遠せずシュールな美しさに満ちた異空間をご体験あれ。

林 建紀

JAZZ DISC SELECTION林 建紀さん)

 

FORCE/the MOST

  2002年6月21日発売
  EWCD-0052 イーストワークス(ewe)
  ¥2,300(税込)

多田誠司(as)
大坂昌彦(ds)
上村信(b)
石井彰(p)

1.ザ・モスト・デンジャラス・ゾーン
2.ダークサイド・オブ・フォース
3.トーン
4.Dec.2
5.ファースト・アフター・ザ・フェスティバル
6.エヴリシング
7.エヴリシング・アイ・ノウ
8.イン・ザ・フィールド
9.オルフェウス


「最上のサウンドを聴け!」

今回は村田浩&THE BOP BANDのbe”BOP”もあって悩みましたが、またも
やS・J誌に取り上げられていなかったので判官贔屓の結果こちらを選択しました。
多田誠司率いるところのthe MOST約一年ぶりの二作目です。ベースが替わり、
私のご贔屓ピアニスト石井彰がレギュラーに加わっています。
「クラブ・トコ」以来のアコースティック・サウンドは一段と緻密になり、まさに隙なし
といったところです。一時期のナベサダを思わせる浮遊感のある多田のアルト、
ソプラノでのバラードも美しい。それを後ろから煽る大坂のビシッとしたドラム、
冷静で美しい上村(かみむら)のベース、そして相変わらず抒情を湛える石井の
ピアノが見事なまでにマッチしています。
全9曲がメンバーのオリジナルでしかも佳曲揃い、値段も日本版としてはかなり
安価な設定。これは買わなきゃね。

片桐 俊英

 


  制作者:片桐俊英  メールはstep@awa.or.jpまでお願いします

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