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1999年7月 第12回作品

ス・ワンダフル/ビル・チャーラップ・トリオ

1999年7月23日発売 徳間ジャパン(VENUS)  TKCV 35078  税込み¥2,800

1..Time After Time (J.Styne)
2..My Shining Hour (H.Arlen)
3..The Blue Room (R.Rodgers)
4.Boy,What Love Has Done To Me (G.Gershwin)
5..Isfahan (B.Strayhorn)
6..Lover (R.Rodgers)
7.Something To Live For (D.Ellington,B.Strayhorn)
8..'S Wonderful (G.Gershwin)
9.Summer Serenade (B.Carter)
10..Only The Lonely (J.Van Heusen)

ビル・チャーラップ/ p
ピーター・ワシントン / b
ケニー・ワシントン / ds


「時代やスタイルを超えた、ジャズの根元的な魅力で一杯」

全曲通して聴いてみて真っ先に感じたのは、なんとナチュラルな音楽だろうというこ と。
そこには21世紀を目前にした若手が抱え込みそうな妙な「斬新さ」が無い。
いかにも今のジャズだな〜と思わせる仕掛けも、背伸びもなにも無い。
そこにあるのは湧き水のように溢れる歌心。それに参りました。

メランコリックな響きの、(3)The Blue Roomなんかは目を閉じて聴いていると、
ジョーダン、シグペン、ペデルセンのトリオ、スティープルチェイスでの「フライト ・トゥ・デンマーク」が
浮かんできました。ビルはこれが彼のスタイルだ、というような明快なアプローチを
あまり意識していない様子。いずれの曲も、自然のままに演奏しているようです。
それがかえってこの作品に無添加、無農薬な魅力を醸し出した気がします。

また、ビルのシンプルなタッチに、見事な彩りを添えている二人のワシントンの
好サポートも光ります。静寂感さえ感じる、間の多い端正なソロに挟まれる
ちょっとしたブラシ・ワーク、ボトムでくっきりとコントラストを付けるベースワー ク、
例えば(5)Isfahan、(9)Summer Serenadeなんかで控えめですが効果を上げてます。

ラグタイム調のイントロから一転して、ハンプトン・ホーズかと思うようなハード・ ドライヴな
展開を見せる(8)'S Wonderful はビルのみならず、両ワシントンもパワー全開のソロ が
ゴキゲン。やはりただ者ではないなと思わせる瞬間です。

普段は汗くさいファンキーでグルーヴィーなものが大好きな私ですが、
Lo-Hi指向のライフ・スタイルはどこいったの、とつっこまれても
構わないと思うくらいこのアルバムには完全に魅了されてしまいました。

評点:★★★★★(五つ星)です。

【apple Jam /Jazz PEOPLE】 / 【Blues PEOPLE】白岩輝茂さん)


「ハートに迫ってくる優しいピアノトリオ」

 センスの良いジャケットを眺めながら、さっそく聴いてみました。冒頭1曲目、
ピアノのソロで静かに入り、そしてテーマのメロディに合わせたコードの奏法の
両手で奏でられるハーモニーのバランスがけっこういい。そして、慈しむように
紡ぎ出されるアドリブにジャズへの愛情を感じました。ここだけを聴いて、ああ、
このアルバムは買って正解だったなあ、という感想。理由は、フレーズが歌って
いて、歌心が溢れているからだろうと思います。
 ピアノソロではじまりテンポもそれほど速くない曲が多いのですが、2曲目の
ようなテンポの良い曲でも、フレーズは十分歌っています。私はこういう演奏の
方がどちらかと言うと好み。奏法も4曲目、8曲目あたりで見せるセンスと幅の
広さはただ者ではない気も。特に8曲目は最初ピアノのソロで弾んで、ベースと
ユニゾンのテーマ、続いてなだれ込む各パートのアドリブを経てまたユニゾンの
テーマと、スリルがあります。エキゾチックな、間を生かした5曲目も渋めです。
9曲目の静かな曲で安らぎを覚え、最後は「本当の」ピアノソロで、ゆっくりと
幕を閉じます。そしてもう一度、最初から聴いてみようかなという気に。
 ハイパー・マグナム・サウンドのどっしりした音が、ちょっと甘いフレーズと
上手くバランスをとっています。ベースとドラムもきっちりサポートしていて、
好感が持てます。普段はこのような演奏はあまり聴かないのですが、技巧よりは
ハート重視の身構えない演奏にどっぷりと浸ってしまいました。ただ、彼のオリ
ジナルをこのアルバムで1曲は聴いてみたかった気もします。

評点:★★★★☆(星4つ半)

工藤 一幸
ジャズCDの個人ページ工藤一幸さん)


「良くも悪くも落ち着きあるピアノトリオ」

     この人も初めて聴くピアニストだ。これが4作目ということだが、今まで全く
ノーマークだった。年齢的にも私とほぼ同じくらいだしワシントンズがサポート
しているとあって、かなりパワフルではじけたピアノトリオを想像していた。
しかし聴こえてきた音はやや予想とは異なった。冒頭から思いっきりリラックス
した50年代プレステイッジのようなピアノ。なんという落ち着きぶりだろう。
そしてそれはアップテンポの(2)などでも変わらず、安定した中にも音色の美しさ、
円やかさが際立つ。(3)(9)のようなバラードでの堂々たる表現力も見事である。
(6)は本作で一番元気の良い演奏でありワシントンズの煽りも強力だがそれでも、
チャーラップはどこかしら余裕を感じさせる。(8)ではモロにパウエルスタイルで
迫るなど、世代的にもいろいろなピアニストの影響を受けていることがわかる。
またワシントンズのサポートは素晴らしく、目立ちすぎているわけではないのに
十分な存在感をアピールしており、トリオのバランスも上々である。
 逆に、ややクセのある曲(4)(5)あたりでは苦戦しているように聴こえた。また
全体的に余裕や落ち着きがありすぎベテランの演奏を聴いているようであった。
もう少し無茶や破天荒な部分があってもよかったのではないか。

 アルバムの完成度も高く、優れたピアニストであることは間違いない。ただし、
本作が彼の本質を全て表現しているかどうかは疑問だ。過去のリーダー作も是非
聴いてみたいものである。

評点:★★★★(4)

増間 伸一
Masuma's Homepage増間 伸一さん)


「ピアノ・トリオによるヴォーカル・アルバム」

 未知の新鋭である。誰かの影響を詮索しても無意味だ。何時か何処かで聴いた
ようで指摘できないのは彼の持ち味が奇を衒わず自然、過去のピアノ・トリオの
伝統を踏まえた中庸なプレイだからだ。もとよりシーンに決定的な影響を及ぼす
タイプではない。こういう人もいてこそジャズは豊かになるわけで、みながみな
Brad Mehldauになっては詰まらない。とにかく歌が満載、ピアノ・トリオによる
ヴォーカル・アルバムと言いたい。それもスキャットやヴォーカリーズといった
変化球は使わない。上質のヴォーカルがそうであるようにフェイクが巧み、詞が
次々に浮かび上がってくる。巻頭からいきなり引き摺り込まれた。このうねりの
心地よさといったらない。快活にドライヴするスインガーから優しく歌い上げた
バラードまで、トリオの楽しさを理屈抜きで楽しめよう。解り易さを理由に責め
られる筋合いはない。時に予定調和に陥りがちな両Washingtonが参加したトリオ
作としても屈指。とりわけPeter Washingtonがこれほどの重量級とは知らなんだ。
恐ろしきは録音の力なり。GDはチト甘いがトリオ好きなら一聴して欲しい。

評点:★★★★

林 建紀
JAZZ DISC SELECTION林 建紀さん)


 

「余裕綽々たるピアノ・トリオ」

 既発の輸入盤を聴いていないので、今作がビル・チャーラップ初体験となった。
一聴してCDを間違えてかけたかと思うほど、こちらが勝手にイメージしていた
”気鋭の若手”の新作らしからぬ落ち着いたサウンドだ。
どの曲をとっても派手さはないが、楽しんで弾いているのが伝わってくる。
まるで大ベテランのような余裕さえうかがえるピアノ・トリオ作品に仕上がっている。
考えてみれば若手といっても32才、50年代の名盤の多くが二十代の若者によって
作られているのだから、別に不思議ではない。
ノスタルジックでありながらよく見ると新鮮なジャケットだが、中身の音楽もまさに
その通りの内容といえるだろう。
そこいらにいくらでも転がっていそうだが、実際にはこれほど完成度の高い
オーソドックスな作品に出会うことはまれだ。
音の良さで評判のヴィーナス・レコードだけあって、いたずらに帯域を広げずに
中域のエネルギーが充実している。
欲を言えば、ベースがもう少し図太い音色であればと思うが、これは録音ではなく
ベーシストの持ち味なのだろう。
ここ一年取り上げてきた椎名豊、スティーブ・キューン、木住野佳子らの作品と
比較しても、一番の愛聴盤となりそうだ。

評点:★★★★☆(星4つ半)

(STEP 片桐俊英)

 


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  制作者:片桐俊英  メールはste p@awa.or.jpまでお願いします


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