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1999年3月 第9回作品

You Are So Beautiful/木住野佳子

1999年 3月 20日 発売 ユニバーサル・ビクター(GRP原盤) MVCJ-29002   税込み¥3,045

1. Israel (Johnny Carisi)
2. Tenderly (Jack Lawrence)
3. Autumn Leaves (Joseph Kosma)
4. The Days of Wine And Roses (Hnery mancini)
5. Waltz for Debby (Bill Evans)
6 .O Grande Amor (Antonio Carlos Jobin)
7. Here,There And Everywhere (John Lennon-Paul McCartney)
8. April in Paris (Vernon Duke)
9. Here's That Rainy Day (Jimmy Van Heusen)
10. Easy To Love (Cole Porter)
11. You Are So Beautiful (Billy Preston-Bruce Carleton Fisher)

木住野佳子 - piano
古野光昭 - bass
安ケ川大樹 - bass
市原康 - drums
岩瀬立飛 - drums


「今更ながらのファンになってしまった」

ビル・エヴァンスへのオマージュ的作品として紹介されている記事が多く見受けられるのですが、
私はこれが木住野の「独立宣言」だと受け止めました。
フェイヴァリット・ミュージシャンの愛奏曲をやりたくなるのは誰しも共通の心理でしょうから、
あえてそれを避けずに積極的に作品に取り込むことで、それらは既にマテリアルでしかない
という気持ちを表現したのではないでしょうか。

それは(3)枯葉 や(8)パリの四月 といった大スタンダードをいずれも
ワン・アンド・オンリーの解釈で堂々と演奏している点からも感じ取れます。
ことさら「女流」を意識するでもなく、男勝りを意識するでもなく、ごく自然な
スタイルでかつ個性的な表現になっているところが凄いなと感じました。

また(9)ヒアズ・ザット・レイニー・デイ などは軽妙なボサ・リズムに乗って珠玉の
演奏が聴けますが、スティープル・チェイスでのデューク・ジョーダンに匹敵する
名演ではないでしょうか。ここでの音の刻み方はもう最高に素晴らしいの一言です。

アルバムのハイライトはやはり圧倒的な存在感を示す(8)パリの四月と、
歌心が溢れんばかりの(11)ユー・アー・ソー・ビューティフル でしょうか。
加えて個人的には(3)枯葉 の起伏の激しい演奏と(6)オ・グランジ・アモール の
可憐さに魅了されました。

しかしです、とっても気に入ったにも関わらず、果たしてゴールド・ディスクに相応しいか
というと疑問は残ります。GDにはもうひとつ何か別次元の決定的な要素が必要なのではないでしょうか。

あえて脱線を覚悟でここでひとつだけ提案させて欲しいことがあります。
毎月GDを選定する必要が果たしてあるのでしょうか。まして最近のGD選定の根拠自体が
多くの読者から疑問が持たれている事実をSJ誌はどう受け止めているのでしょうか。

出来ることなら各選者毎のベスト・ディスクという形で発表するだけで充分なのではと考えます。
個々のライターが自分の価値観で選ぶベスト・ディスクにはそのライターの傾向を知る読者には
納得のいくものがあり非常に参考になります。年間のベスト・ディスクを選定する際も個々のライター陣が
個別に選んだ物を紹介して頂ければはるかにその方が読者に親切だとも思います。

大変失礼な物言いになりますが「SJ誌選定」にかつての権威も信憑性も失われつつある今
それはとても必要なことなのではないでしょうか。

木住野さんの作品をクロス・レビューするコーナーにこういうことを書くのは木住野さんに対しても
失礼なことになってしまうので、非常に恐縮ではありますけれど、どうしても発言したくなってしまいました。
すみません。

評点:★★★★☆(星4つ半)

白岩輝茂
【apple Jam /Jazz PEOPLE】 / 【Blues PEOPLE】白岩輝茂さん)


「やっぱりただ者ではないピアニスト」

   初めて木住野佳子のアルバムを聴きました。ビル・エヴァンスの愛奏曲やスタンダードを中心に、
良い曲を集めています。1曲目「イスラエル」で始まるあたり、帯にもあるようにビル・エヴァンスの
影響が強いのかと思いきや、フレーズや盛り上げ方はもうちょっと豪快なイメージ。
演奏もアレンジも我が道を行く、という感じで、聴いていて気持ちよい。
もうあまりにも有名すぎてちょっとやそっとの演奏では驚かない3曲目「枯葉」でも
意表をついたテーマのアレンジ。テーマでのベースのアレンジも彼女の指示でしょうか。
ソロの部分も素晴らしい。ノッています。5曲目「ワルツ・フォー・デビー」ではテーマなどで
変拍子(3+3が2+3になっている)を絡めて演奏しているあたりやっぱりただ者ではない。
この曲でもなぜかしっかり盛り上げてしまいます。

 やや静かな4曲目、7曲目、11曲目、ボサノヴァ調の6、9曲目などもあってアルバム全体の
バランスがうまくとれている感じです。本来静かな曲でも盛り上がることも。
タイトル曲の11曲目は心に染み込んでいきます。 ソロのフレーズには無駄がない気がします。
このアルバムは11曲あって46分台の長さ。1曲あたり平均4分ほどと短く、贅肉を削ぎ落として
曲を短くまとめているからかも。BGMにして流して聴こうと思えばできますが、ちょっともったいないか。
時々スリルのあるピアノのフレーズが入ったときに思わずニンマリ。
ただ、私としては、オリジナル曲が1曲もないのがちょっと残念。

 このアルバムは3、5曲目で買い、でしょう。今回このアルバムを聴いてしまったばかりに、
リーダー作を4枚全部揃えてしまうことに。4枚とも3千円超のアルバムです。今月も財布が軽い!

評点:★★★★☆(星4つ半)

工藤 一幸
ジャズCDの個人ページ工藤一幸さん)


「玉磨かざれば光なし」

   快調な出だしに期待が高まる。ライヴ感漲るBとDもノリのよさが活きた快演。
この後が気に入らない。ミディアム主体で編曲に意は用いられているが、冗長で
スリルとテンションを欠く。左手のタイミングがオン・タイムでヴォイシングが
重厚長大なせいだろう。いきおいベースとぶつかりがちで粒立ちよく聴こえない。
これはスローからミディアムで、とくに気になる。的確な音の選択があってこそ、
真のグルーヴ感は生まれる。トリオのメカニズムについて研究が足りないようだ。
Lennon-McCartneyのFでは良い方に作用したが、この辺りは彼女の根っ子だろう。
一皮むけた一作らしい。ようやく自分を発見した段階ということになる。GDに
するのは勝手だが、第一級ピアニスト、今を代表するトリオ作と思われては困る。
輸入盤を聴くといい。もっと弾けて高い音楽性を備えたピアニストは案外といる。
アップの@BDGは4ツ星級。やはりスローからミディアムが課題だと思う。

評点:★★★☆(星3つ半)

林 建紀
JAZZ DISC SELECTION林 建紀さん)


「ハイクオリティなピアノトリオアルバム。でもそれだけ」

 この人のアルバムを聴くのは今回が初めてである。聴く前のイメージはどちらかといえば
繊細で脆弱な印象を抱いていたが、このアルバムはなかなか力強い作品に仕上がっていると思う。
エバンスにゆかりの曲を集めるというと、どうしてもソフトになりがちだがそれだけではないところが頼もしい。
中でも(2)が特に良い。(3)も原曲のもつイメージを壊すことなく、個性的に仕上げており魅力的だ。
ほとんどエバンズとイコールに語られる(5)は美しく、ボッサ調の(6)(9)は心地よい。
どの演奏もほど良くコンパクトまとまっており破錠がない。リズムセクションも控えめだが堅実そのもの。
 しかし、逆にいえばこの人の個性みたいなものは見えてこなかった。確かにテクニック的にも問題は無いし、
アルバムもスムーズに流れていく。だがそれ以上の何かが欲しかったように思う。
特に前回、前々回と個性の塊みたいなアルバムを取り上げてきただけになおさらその思いが強くなる。
まあ、彼女は既に3枚のアルバムを出しているわけだし、この1枚だけで判断するのは危険かもしれないが。
またビートルズナンバーを取り上げるというのも安直に思えてならない。いい演奏ではあるけど。
 演奏自体やアルバムの完成度にはケチのつけようがないけど、その月を代表するGDである以上は、
それにプラスアルファの何かがなければいけないと思う。私にとってこのアルバムはただ単に
出来の良いピアノトリオアルバムに過ぎなかった。ただし何度も書くがアルバムのクオリティは高いので
買った人をがっかりさせることはないだろうし、ピアノトリオ好きのファンには安心して薦められる一枚ではある。

評点★★★☆(星3つ半)

増間 伸一
Masuma's Homepage増間 伸一さん)


「まさにタイトル通りの美しさ」

従来のニューヨーク録音から今回は初めて東京での収録となり、
日本のジャズメンとのトリオ作品だ。
過去3枚のアルバムがいずれも好評を博していた木住野佳子だが、
恥ずかしながら今までちゃんと聴いたことがなかった。
だから今までとの比較はできないが、予想外に(?)ジャケットの
イメージ通りの音楽が流れてきた。
大体ゴツイ体のピアニスト(ピーターソンとかチェスナットとか)は、
意外と繊細な感じの弾き方をする人が多いので。

曲によりベースとドラムが交代しているが、通して聴いて違和感を
覚えることもなく、統一された雰囲気が楽しめた。
ベースの古野光昭は、私が生で聴いた範囲では最も美しい音色を
奏でるベーシストと思っている。
木住野の何とも言えない美しいタッチにピッタリだ。
もう一人の安ヶ川も決してそれに劣らないいい音を出している。
さすがに寺島さんも褒めているように、録音もトリオのバランスが
しっかりととれていて、誇張感のないサウンドが聴ける。

全体に極上のBGMとしても楽しめるが、適度な緊張感を
保ったトリオのやりとりを聴くのも興味深い。
ビル・エヴァンスやキース・ジャレットを好きな人には
文句なくおすすめできる。
一曲を選ぶとすると、10曲目の”EasyToLove”。

最後に無い物ねだりだが、日本作品にありがちな生真面目さが
やや感じられるので、良い意味での”遊び心”のようなものが
加わればいっそう魅力を増すだろう。

評点:★★★★(星4つ)

STEP 片桐俊英

 


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  制作者:片桐俊英  メールはste p@awa.or.jpまでお願いします


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