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1998年12月 第6回作品

忍びよる恋/スティーブ・キューン・トリオ

1998年 12月 23日 発売   TKCV-35062  税込み¥2,800

 

1.No Problem (D.Jordan)
2.Land Of The Living Dead (A.Gafa)
3.Sunny (B.Hebb)
4.Love Walked In (G.Gershwin)
5.Saharan (S.Kuhn)
6.Prelude To A kiss (D.Ellington)
7.All Alone (I.Berlin)
8.Autumn Leaves (J.Kosma)
9.Lines (V.Storaas)
10.You've Changed (C.Porter)

Steve Kuhn- piano
Buster Williams- bass
Bill Stewart- drums



'98年12月26日、千葉県千倉町のペンション「バードランド」にて、
第6回目の「ゴールドディスクを斬る」を、「バードランド」の本格的オーディオシステムを
使用して座談会形式で行いました。

会場になった「バードランド」の紹介はこちらへどうぞ。

 こんばんは、油井正一です。(笑)違うか。
「ゴールド・ディスクを斬る」6回目にして初めて皆さんとお目にかかったわけですね。
今回はメッタ斬りになる可能性の高いCDだと私は思うんですけれど。(笑)

1曲目は「危険な関係のブルース」。
正直言ってスティーヴ・キューンというのは、一番新しいのでもECMの「エクスタシー」しか聴いたことがなくて、
これ聴いて驚いたのはいつの間に転向したんだと(笑)。
これブラインド・フォールドでキューンって当てる人は先ずいないだろうね。
前作や前々作を聴いている人なら判るんだろうけれども。
ということで、これが今の俺だという強烈な主張のある演奏です。フレーズは淀みないし、猛烈なドライヴ感だし。
ただ、よく聴くと何か底が浅いんだよね。(笑)細かなフレーズを積み重ねてタラタラ弾き流しているだけで、
ああココ、コレコレという美味しいフレーズが出てこないんだ。まあ、予測可能な展開で、4つ星止まりでしょう。

増間 私もこれを最初に聴いたときはちょっとびっくりしました。
僕もあまりスティーヴ・キューンって聴いたことはないんですけれど、
イメージとしてはどっちかというとECMっぽい感じのイメージが頭にあったんです。
これを最初車に乗っているときに聴いたんですけれど、いきなり車のスピードが上がってしまうような感じで、
すごいノリが良くてびっくりしました。今日はこういう立派なシステムで聴いてみたんですが、
確かに勢いはあるんですけれども、途中から少し飽きて、もういいやという感じにもなってきました。
イメージ的には覆すものはあったんですけれども、僕は途中からは苦しかったです。

片桐 私もあまりスティーヴ・キューンを聴いたことはなかったんですけれど、
ECMっていうかちょっと線の細いっていうようなイメージしかなかったんです。
確かにこの一発目は、おお、何だこれは、という感じでしたね。お二人と同じような印象を持ちました。

 全曲こんな感じだったら体力持ちませんよ。(笑)

片桐 ライヴだとこういう曲がバンバンきてもいいんですが...。

工藤 録音がけっこう熱い録音っていうのか、ヴィーナスでいうところの
ハイパーマグナムサウンドっていうんらしいんですけれど、それはそれで盛り上がっていいかと思うんですね。
ただ、個人的に許せないのは、今スティーヴ・キューンっていうのはいろんな所でいろんな録音していて
多面性があるようなんですけれども、やっぱりECMライクな音であってほしかったということなんですね。
しかも一発目からデューク・ジョーダンの定番の「危険な関係のブルース」を元気いっぱいやられた日には、
というのがくすぶっていて、今回のアルバムについてはちょっとその偏見に基づいて話していきたいかな、と思っています。

次に2曲目の「ランド・オブ・ザ・リヴィング・デッド」にいきましょう。
雰囲気は好みのタイプなんですね。こういうのいいなあ、と思うんですけれど。
でも人選について、バスター・ウィリアムスのベースが、ちょっと骨太過ぎるなあ、っていうのが気になっていて残念です。
ドラムの人選はいいと思うんですけれどもね。この曲の路線で一枚できないかなあという感じはあります。

片桐 この曲はベース中心の曲だなっていう印象を受けました。
私にはちょっと重く、苦手なタイプの曲だなっていう印象を受けたんですけれど。
ところで最初の唸り声ってキューンなんですか?(笑)あの、なんとも言えないあの唸りがちょっと...。
私キース・ジャレットの唸りはけっこう好きなんですけど(笑)。ちょっと違和感を感じました。
「ロミオとジュリエット」のテーマに似たようなメロディが出てきて、部分的には好きなところもありました。

増間 僕はキューンのイメージとぴったり、この曲だったら合ってるって思います。
1曲目のアグレッシヴな曲の後にこのような穏やかな感じの曲がくるのはほっとします。
バスター・ウィリアムスがこういう演奏に合っているかどうかというのは疑問ですけれど。

 この曲はキューンらしくなったとは思うんですけれど、問題はやっぱり、私の記憶からすると、
角が取れて、ヒリヒリするようなリリシズムが薄れていると思います。
それから皆さんおっしゃっているバスター・ウイリアムスなんですけれど、
こんな下手な人じゃなかったと思います。(笑)もっと上手かったと思う。
このCD全部に通ずることだけど、今のロン・カーターと変わらないぐらい下手なんだよ。(爆笑)
ピッチは臭いし、音の選択もおかしい。

3曲目は「サニー」。意表をついたテンポですね。
サニーといえばソニー・クリス。でも私、ソニー・クリスは大嫌いです。(笑)
サニーで一番好きなのはパット・マルティーノ。これは二番手ぐらいに来るでしょう。
ところが、もっとも彼らしくない、恐るべくブルージーです。困ったことに本作のハイライトの一つじゃないか。
このねちっこさは彼らしくないなぁー。名前を見ないで聴いたら、私4つ星半をつけます。

増間 私は最初CDで聴いたときにこの曲はあまり好きになれなかった曲なんですけれども。

林 それがあなたと私との違いです。(笑)

増間 ただ、ここで聴いてみますと、印象が変わりまして、
特にソロの途中あたりからモワっと熱気がこもってくるあたりが、
ハチャメチャにはならないんだけど内にこもるような熱気って言うんですかね、
そういうのを感じて、最初の印象よりだいぶこの曲を気に入るようになりました。

片桐 この曲は6分8秒っていうタイムでちょっとびっくりしたんですけれど、
聴いている感じでは3分か4分ぐらいかな、と思っていたんです。
演奏の時間の長さを感じさせないっていうことは、けっこう良かったんだな、と思います。
ブルースは大好きなんで、このテの曲はけっこういいです。

工藤 実はこの曲は軽快なテンポで8ビートでやって欲しかった曲なんですけれど。
あと、果たしてキューンにブルース心はあるのかって言うと、やっぱりあるんだろうなあ、って思うんですが、
何だか、知り合った女の子の意外な側面が見えてきちゃったっていう感じで(笑)、
あらまあ、どうしましょうっていうのが本当の気持ちです。

そして4曲目の「忍びよる恋」ですか。いいですね。
先入観はさておき、という形ではあるんですけれど、よく歌っているし、ノッている、という感じで。
時折ビル・スチュアートのドラムが前面に出る場面があって、そこのところがけっこう気持ち良くて、この曲は好きです。

片桐 今まで聴いてきた曲の中で一番トリオ演奏らしいと感じましたね。
ただ、エンディングがしつこいっていうか、もうちょっとスパッと決めてくれれば、もう少しいい気持ちだったんですけれど。
ベースは私、音程がどうとかいうのは良く分からないんですけれど、確かに今イチはずまないっていうのか、
気持ちが良くないっていう感じは受けました。

 音が合ってないの。だから乗らないんです。

増間 私もこの曲はアルバムの中でもかなり好きです。
同じアップテンポなんですけれど、1曲目みたいに無理に力が入ってないっていうんですか、リラックスした感じで。
でも、バスター・ウィリアムスのベースソロがいきなりきて、しかも長いっていうのはいやですね。
最後の方にちょこっとあればいいかなっていう気はするんですけれど。

 えーっと、この4曲目がタイトル曲ですよね。アルバム・タイトルにふさわしい、いい演奏だと思います。
ちょっとビル・エヴァンス風だよね。エヴァンスのノリノリの演奏って、だいたいこういう感じじゃないですか。
いわゆる快適なスインガーというか。淀みなくよく唄っている。間違いなくこのCDのベスト・トラックでしょう。
問題はベース・ソロと最後にフォー・バース・チェンジが出てきますよね。あれで流れが途切れちゃう。
全編ワンマンで通して欲しかったな。それが残念だけど、4つ星半ぐらいは行くんじゃないかな。
ただ、やっぱり彼らしくない演奏には違いない。(笑)

5曲目の「サハラン」です。
えーっと、これはこのCDで最もキューンらしいトラックじゃないですか。
彼の美意識が溢れかえっている演奏だと思います。
ところが残念ながら、何か突き刺さってこないんだな、昔のものと違って。
やっぱり角が取れているんでしょう。これは私は3ツ星半だな。

増間 やはりこれがキューンの僕の中でのイメージと一番一致する曲です。
淡々と捕らえどころがないまま進んでいく感じで、気がつくと終わっている感じの曲なんですけれども、
こういう曲がアルバムの真中に置いてあるのはいいんじゃないかと思います。

片桐 2曲目と共通した曲想の曲なんですけれども、ピアノの音が抜けていないというか、
もうちょっと高いところがきれいにスッと出てくれば、美しさっていうのが出るような気がするんですが...。

工藤 曲目のリストを見てみると、この曲だけ唯一のオリジナルなんですね。
このアルバムには有名な曲ばかり並んでいて、何となくこの5曲目で、俺、本当はこんな曲を
やりたかったんだよ、っていうところを見せているのかなと、考え過ぎかもしれないけれど、感じました。
捕らえどころがないって言えば捕らえどころがないかもしれないけれど、フレーズ自体は
ものすごくきれいなフレーズがところどころにあって、コード進行も印象的なんですね。好きな曲です。

片桐 6曲目の「キスへのプレリュード」は、印象が薄いんですけれども、
ドラムが中心の曲かなっていう気はするんですけれども。

最初は「カーニバルの朝」のような感じで始まって、そのノリがなかなか良くて。
ただ途中で変化してきたあたりから何か、ベースがちょっと出過ぎかなっていう気はしたんですけれど...。
この曲は、まあまあ及第点だと思います。

 じゃまにならない。(笑)

工藤 メロディもいいし、ボサノバで軽快で、ソロの部分もノッているって言うんですかね、
なかなかいいメロディを奏でている部分があるんで、何か心地よく1曲が終わっちゃったなっていう部分があるんですね。
リズムが変わったっていうせいなのかも知れませんけれど、僕はこういうリズムとメロディには弱いです。

 最初のテーマのところの右手のタイム感覚が、やっぱり彼らしいって言うか、独特なんですよね、あのズレ方がね。
途中から次第に熱気を帯びて結構な大団円を迎えるんじゃないかなと思っていたら、何の変哲もないプレイで終わっちゃった。
何だか詐欺みたいな演奏です(笑)。元ネタというか、これに非常に近いプレイを思い出した。
リチャード・ワイアンズの「リユナイテッド」(クリスクロス)で、サイドメンはこのサイドメンよりよっぽど上出来、
ピーター・ワシントンとケニー・ワシントン。同じようにボサノバでやっていたと記憶しています。
でもこのCDは売り飛ばしたから(笑)、確かじゃない。
ワイアンズみたいに世界の小さなプレイで、ワイアンズがこんなプレイをするのは大いに許してしかるべきなんだけど、
キューンがやるのはちょっと違うんじゃないかなという気がします。

増間 ボサノバ調の曲ということで、この曲があるがためにこのアルバムがバラエティに富んでいる
という印象を与えていると思います。これといって耳に残る部分というのがないんですが、
ソロの部分もシンプルというか誰が聴いても分かりやすい気がします。
そういう意味でもアルバムの中ではアクセントになっている曲ではないかな、と思います。

それから7曲目の「オール・アローン」。
この曲も私のキューンのイメージからかけ離れていますけれど、このアルバムの中では一番好きです。
すごい躍動感があって、一気に聴かせるという感じで、途中ドラムのビル・スチュワートがフィーチャーされる部分が
あるんですけれど、そこもコンパクトにまとまってて、曲の流れを止めるようなものでもなかったので、
全体が一気に聴きとおせまして、この曲は私の好みです。

林 これもノリノリの快演ですね。4曲目もそうですが、大スタンダードの出来がいいですね。
歌心に溢れているし、ああ本当に、これがキューンでなかったらなって(笑)、そう思える出来の良さですね。

工藤 この曲は何も考えずに楽しめました。
というわけで、この曲は何も考えずにこれだけっていうことで...。(笑)

片桐 私も楽しいライヴを聴いているようなイメージで、余分なことを考えずにどんどん終わったっていう感じです。
ベースも割と気持ち良く聴けました。

8曲目の「枯葉」については、恥ずかしながら、私は最初にこれを聴いたときに「枯葉」と分かるまでにかなりかかりました。
かなりひねったって言うんですかね。前にデヴィッド・S・ウェアのあのすごい「枯葉」があって、
あれにちょっと似た部分を感じたんですけれど、これが良いのか悪いのかというと、もう少し聴かないと...。
ただ、ありきたりじゃないということを非常に感じました。

工藤 何となく後半で曲名は分かったんですけれど、すごいのは、最後まで3拍子で通していること。
普通は盛り上げる部分はやるとすれば途中から4拍子になっちゃうんですよね。
そこで勝負しているのがすごいなあっていう感じがしたんですよね。イントロについても、
よそではあまりないような感じなのでいいと思います。私は、この曲はマルです。

 これもビートはボッサですよね。ということは3拍子というより8分の6ですよね。

工藤 そうだと思います。

 で、このCDっていうのは曲想が3分されるんですけど、これはエヴァンス風ですね。
ただ、随所でエヴァンスだったら決して弾かないようなフレーズは飛び出します。
カラー的にはエヴァンス色が若干勝っているかなという気がします。
これね、多分、レコード大賞で編曲賞ぐらいは取れるでしょう。ものの見事に別の曲ですよ。これは4ツ星ぐらいかな。

増間 私も、全然「枯葉」って気がつきませんでした。
かなりデフォルメって言うんですかね、変えられた「枯葉」になってますけども、
あんまり僕はこういうのになじめないんで、もう少し原曲の印象を残してほしかったなという気はします。

 この曲ね、節がすごくしつこいじゃない。アドリブが様になりづらい難曲のうちに入ると思うんだけど。
名演て少ないじゃない。「サムシン・エルス」(キャノンボール・アダレイ)と「ポートレイト・イン・ジャズ」(ビル・エヴァンス)
ぐらいしかないでしょう。あとはイヴ・モンタンぐらいか。(笑)

増間 9曲目の「ラインズ」は、雰囲気的にもキューン的というか、彼のイメージにマッチした曲だと思います。
メロディもその割にはすごく分かりやすくて、親しみやすい感じはしました。
ベースのソロがいきなり出てくるのはあまり賛成できないんですけど、ちょっとそこで少しぶち壊しにされたかのような気分です。
その後でキューンがそのマイナス点を取り返すかのような感じでソロをガーッと弾いてくれて、後味は良かったです。

 これも2、5曲目と同じキューンらしいトラックですね。
いわゆる自己陶酔型なのか自己没入型なのか、そういうプレイだと思います。メロディが非常に美しい。
残念ながらもう一押し足りないなという感はありますが。

工藤 すごいきれいな曲だったんですけれども、どこが良かったかっていうと、
延々続くアルペジオの繰り返しで、そこがすごく美しく聴けたというのがこの曲の良いところ。
私はこういうジャズらしからぬところが好きです。ただ、ベースとのアンバランスがぬぐえないって言うのが、
今ひとつ残念だったんですけれど。私はこの曲だけ何回も聴き返したい感じです。

片桐 私はこの曲はちょっと眠くなりました。
むしろ私は繰り返しがむしろ退屈に聞こえちゃったんですけれど。
まあ、メロディ自体は非常にきれいに流れているんですけれども。

次に最後の10曲目「ユーブ・チェンジド」になりますが、一番ピアノの音がきれいに聞こえました。
トリオとしてもまとまりもけっこう良かったように思います。ベースのソロもそんなに悪いようには思えません。
この曲はアルバム中1、2番でしょう。

工藤 親しみやすい曲だなあ、ていう感じは強かったです。
でも、ドラムは良かったんですけれどもベースはちょっと...というのがここでもあります。

 これも6曲目といっしょで、やっぱりワイアンズに近いなという気がします。
ブルージーでこぎれいで、こじんまりとまとまっています。簡単に言ってしまえばB級トリオの典型作です。
別に彼が弾く必然性はありません。非常に心地よい。こういうタイプのプレイが好きな方はワイアンズを是非聴いてください。

増間 非常にリラックスしてスインギーな感じで、アルバムの最後に持っていくには
なかなかハマッた曲ではないかと。こういう曲でアルバムが終わるのは僕は大好きです。
曲としてはとりたててこれだというものはないんですけれど、気楽に聴けて良かったです。

工藤 それではアルバム全体のまとめにいきましょうか。
早い者勝ちで、後から話すほうが言いたいことを先に言われてしまうんで(笑)私から(笑)。
キューンらしさを追い求めていくと、このアルバムはちょっと違うかな、という気が何となく心の片隅にありまして、
アルバムとしてはすごくいいな、って感じはあるんですけれど、普段街を歩いていて、買うか買わないかというと、
普通のジャズと言ってしまえばそうなんで、やっぱり私にとっては買う必要がないアルバムだな、と思います。
評価でいけば星4つはいくと思うのですけれど。

片桐 でも買っちゃったんでしょう。(笑)

工藤 彼のECMの96年作「リメンバリング・トモロウ」の方が、まあ、ECMですから
アルバムとしてはちょっと聴く人を選ぶアルバムかもしれないですけれど、彼らしさがふんだんに出ていると思います。
私は、キューンならこっちのアルバムを押します。

片桐 私は最初に聴いたときは星3つ半かなと思ったのですが、今1曲ずつじっくり聴いたら4つ星かなと。
ただ、アルバムを通して聴くと、構成がもうちょっと工夫があれば聴きばえがするというかね、そんな風に感じました。
自分で買うかどうかというのは非常に難しいんですけれど、毎日かけることはないと思いますが、
1週間に1回ぐらいはきっとかけると思います。(笑)

増間 アルバム全体として非常にバラエティに富んでいて、同じようなタイプの曲が続かないように
考えて配置されていると思うんですけれども、そう言う意味では聴いていて飽きさせない内容だったと思います。
ただ、工藤さんのようにキューンに対してあるイメージというか、期待を持っている方にとっては、
ちょっと首をひねってしまうんではないかなあ、と思います。
僕個人としては、好きな曲の方が多かったですし、おおむね平均以上です。
ベースのミスマッチというのは皆さん感じてらっしゃるのでしょうけれども、
それを差し引いても、おおむね3つ星半に近い4つ星です。

 私の分類だと1、3、6、7、10曲目がハードバップ、4、8曲目がビル・エヴァンス風、
2、5、9曲目はキューン風です。三分されて、要するに統一感に欠ける。
曲毎の採点は、4つ星半が3曲、4つ星が4曲、3つ星半が3曲で、なるほど平均すると4つ星になるんですが、
バラツキがあるというか粒が揃っていない。ちょっと残念だな。
ワクワクするような躍動感とスピード感を見せた1、7曲目、エヴァンス風の歌心を見せた4、8曲目がいいですね。
一方でキューンらしいトラックは、確かに彼らしいんだけど、特に傑出した出来ではないと思います。
冒頭で言った、いつの間に転向したんだ、驚いちゃった(笑)という話なんですが、
これは実は驚くに当らないんですね。ジャズメンで名前の出た人なら皆ストレート・アヘッドから出発して、
その先に個性を確立していくわけですから。
彼みたいに、希な個性を確立した人が何故それを放擲してここに戻って来たのか、本当に解せないですね。
レーベルのせいなのか、プロデューサーのせいなのか。キューンの作品である必然性が感じられない。
それから、ゴールド・ディスクということは98年を代表するアルバムの一枚ということになるのでしょうが、
とてもそうは思えないですね。
結論としては、彼の作品ということを気にかけなければ、まずまずのピアノトリオ作だということになると思います。
彼の作品としての採点は非常に難しい。匿名のピアニストの作品としてなら3つ星半に近い4つ星ということになると思います。
あと、このアルバムの一番素晴らしいのはジャケットですね。今時こういうヌードは珍しい。
子供の頃に隠れて見ていたレコードのカタログね。こういうのが溢れていた。ラテンとか、タンゴとか、ムード音楽とか。
ところでこのアルバムの邦題って、何でしたっけ?「忍びよる恋」? 石原裕次郎じゃあるまいに、何たるセンスだ!(笑)

工藤 4人とも全員4つ星ということで、今回は評価にバラツキがなかったですね。

 また、いずれどこかで第2回のオフ会をやりましょう。



委員の声(遠方かつご多忙の白岩さんはご出席になれなかったので従来の形式です)

「ジャズ界にも異常気象現象?」

実はGD委員会なるものに参加させて貰ってから、
今回ほどその対象作品の発売を心待ちにしたこと
は無かった。それは至極単純な理由からで、単に
キューンがバップチューンの「危険な関係」をやって
るという興味からだったのですが、実際に聴いてみて
今度は初めて素直に五つ星が脳裏に点滅した次第です。

かなりのスピードで展開される「危険な関係」の
テーマ部分を聴いた瞬間、私がそれまでキューン
に抱いていたイメージ・・・それは一面、雪の大地
であったり、そびえ立つ氷山であったりしたものが
溶解して緑の平原にとって変わってしまいました。
食わず嫌いで、キューンを殆どまともに聴いたことが
ないので今、具体的には比較できないのですが、
このドライブ感は私にとって好ましい部類のものです。

(2)も胸がきゅんとするようなドラマチックな導入部から
ややもすると陳腐さと紙一重のマイナーのメロディが
ここでははっとするほど切ない。オリジナルの(5)もシン
プルなテーマの醸し出す情景がモノクロの仏映画のよ
うでこの陰影はあたかもジャズに於けるドビュッシーと
いった感じ。私の大好きな曲(10)では、これが本来の
キューンの持ち味なのかなと思える、あまりベタベタと
しない、さらっとした質感が、なんだかとても上品で、
これはこれでとても気にいってしましました。

ボトムをキープするバスター・ウイリアムスのベース
は全編にわたり、このアルバムの性格を決定づける
大きな要素のひとつで、彼のベースがあってこそ、
キューンのプレイが緑の大地化したのだと、個人的
には感じてます。

ということで、諸手を挙げて今回は最高点の献上です。
評点 ★★★★★

白岩輝茂
JazzPEOPLE白岩輝茂さん)


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  制作者:片桐俊英  メールはste p@awa.or.jpまでお願いします
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