GD看板



2000年4月 第20回作品

ザ・ロイ・ヘインズ・トリオ・フィーチャリング・ダニーロ・ペレス&ジョン・パティトゥッチ

2000年4月19日発売 ユニバーサルビクター(Impulse) MVCI 24019  税込み¥2,541

1..Wail (Bad Powell)
2..Question and Answer (Pat Metheny)
3..Shulie a Bop (George Treadwell-Sarah Vaughan)
4.Dear Old Stockholm (Traditional)
5.It's Easy to Remenber (Ritcherd Rodgers-Lorenz Hart)
6.Folk Song (Chick Corea)
7.Shippin' at Bells (Miles Davis)
8.Bright Mississippi (Thelonious Monk)
9.Prelude to a Kiss (Duke Ellington-Irving Gordon-Irving Mills)
10.Green Chimneys (Thelonious Monk)
11.Solar (Miles Davis)  ボーナス・トラック(日本盤のみ)

ロイ・ヘインズ (ds)
ダニーロ・ペレス(p)
ジョン・パティトゥッチ(b)



「ストレス増強剤」

冒頭からロイのやる気満々のプレイが炸裂します。
長らくシーンの第一線に身を置いてきたヴェテラン・ドラマー、
自らがリーダーでのこのセッションに、持てる技量の全てを
文字通りここに叩き込もうとしたのだと思います。
そんな気持ちが余ったのか、いずれの曲でも
挑戦的で非常に手数の多いプレイとなっています。
全体のバランスも何のその、他の演奏者との
コミュニケーションというより、俺が、俺が、の
仕切屋登場といった感じがします。

しかしそんな叩き方が様になってるなというのが(6)で、
アグレッシヴなハイハットの刻み、そこの絡むタムとバスドラが
妙にセクシーです。ここへきてようやく色気を感じることが
出来ました。スタジオ・セットの中ではベスト・チューンに思えます。

一方ライヴ・セットではマイルス・チューンの(7)が
私には最もしっくり来ました。パティトゥッチの
ベース・ソロとロイのドラムがいい感じで会話してます。
特にピアノが滑り込んできてからインテンポになる瞬間
ぞくぞく来るスリルを感じました。ラテン・フレイバーの
強いダニーロ・ペレスのピアノもこの曲では曲全体の
雰囲気にマッチしていて胸のすく好演を聴かせます。

個々の曲にはそれぞれ聞き所の多いアルバムですが
これがGDというのには疑問が残りました。
SJ誌には毎月のリリースの全体を聴いてから
GDの選定を行って欲しいと常々感じます。

評点 :★★★(三つ星)

白岩輝茂
【apple Jam /Jazz PEOPLE】 / 【Blues PEOPLE】白岩輝茂さん)


「全編ドラムソロのような気分?」

 このアルバムは、過去の、あるいは現在のミュージシャン達にゆかりのある曲
ばかりを演奏した、トリビュート・アルバム。さっそく聴いてみました。だけど
何となく普通のジャズのアルバムと比べて変だ。その理由は、どうもドラムスが、
やや大きいバランスで録音されているのが原因かも。確かにドラマーのアルバム
なんですけれどね。ロイ・ヘインズの持ち味は煽り立てるような叩き方にあると
思うのですが、そのバランスのせいでけっこううるさく聞こえてしまうのが難点
かもしれない。ドラムスもベースも、リズムキープではなくてそれぞれが高度に
絡み合って微妙なバランスのまま曲は進んで行くので、このトリオの演奏は離れ
業のレベルにあるのだろうとは思います。音もリアリティあふれているし。
 2曲目のドラムスの煽り方は見事です。そしてフツフツと盛り上がるような、
哀愁も漂う4曲目。そしてイチ押しの6曲目のラテンナンバーがハッとするほど
良い感じですが、8曲目のドラムとピアノの掛け合いもスリルがあります。やや
静かな曲ならば5、9曲目がいい。ドラムソロが長いのは10曲目。他の楽器が
加わった後も絶妙なやり取りが繰り広げられます。
 それぞれの曲単位では素晴らしいと思うことも多いのですが、通して聴いて、
疲れてしまうのが少々つらいところ。エネルギーがあり余っているときに聴くと
良いかもしれない。

評点:★★★☆(三つ星半)

工藤 一幸
ジャズCDの個人ページ工藤一幸さん)

 

「御大のワンマンショー」 

 今回のGDではダニーロ・ペレスに注目していた。過去のリーダー作が今一つ
煮え切らない感じだったので、今回御大をバックに大暴れしてくれると期待を
していたのだ。しかし結果的に大暴れしたのは御大ヘインズだけでありペレス
は思いっきり期待を裏切ってくれた。特に前半のスタジオセットでは録音との
関係もあるのだろうが、少々粗暴とも思えるドラミングでロイがバシャバシャ
と楽曲を支配。ペレスとパティトゥッチは刺身のツマ状態。ドラムが出すぎて、
楽曲の魅力がうまく表現できていないように思える。前半で落ち着いて聴ける
のは(6)くらい。
 後半のライブセットではトリオとして(音の)バランスが大分良くなっており、
聴きやすいが如何せんペレスの切れ味が鈍くトリオとしての完成度には疑問が
残る。
 トリオとしてのバランスが悪いスタジオセットと、ガツンと来るものがない
ライブセットを半分づつ詰め込んだこの作品はアルバムとしても統一感に欠け
散漫な印象である。77分強を聴き通すのは、ハッキリいって至難の技であった。
ただしロイのドラミングに限って言えば、衰えなど感じさせぬパワーが随所に
感じられ流石だ。だからこそ余計に他の二人の元気のなさが露呈してしまった。
 まさしくロイのワンマンショー、悪く言えば一人相撲というところか。 

評点:★★★(三つ星)

増間 伸一
Masuma's Homepage増間 伸一さん)


「志高遠なるも意通ぜず」

 Danilo Perez、当てが外れた。若手の起用は喜ばしいが、これは人選を誤った。
二三を除き選曲が楽想と合わない。音楽自叙伝ともいうべき内容、気鋭の若手に
こんなカビ臭い曲を演らせてはいかん。新たな魅力を付け加えるのは無理にせよ、
それ以前にこなれていない。彼がペンをとったものと思うが自身が魅力を感じて
いないせいか、編曲、演奏ともそつなくこじんまりまとめあげただけ、芸がない。
トリオの魅力はピアニストに多くを負うているという当り前の事実が証明された。
Haynesのドラミングを誉める論調を見る。俺が俺がで前面にしゃしゃり出るのは
一向にかまわない。主張も解かる。しかし、手数と創造性、完成度は別物だろう。
Haynesへの評価を一新する作品とは思えない。近作は未聴だが聴く気が薄らいだ。
スタジオ・セットは凡庸極まりないが、ライヴ・セットのMonk曲で面目を保った。
総じて感動もしなければ感心もしない。 "We Three"はもとより"Just Us"並みの
魅力すら覚えない。A級アーティストのB級作品、評者達も聴き所を捻出するのに
苦心したように映る。本作をHaynesの代表作にあげるのは失礼というものだ。

評点:★★★(三つ星)

林 建紀
JAZZ DISC SELECTION林 建紀さん)


「老いてますます盛ん、だが...」

演奏も録音もまさにロイ・ヘインズのドラムが中心のアルバムである。
たしかに75歳とは思えない溌剌とした姿が目に浮かぶ。
 前半のスタジオ・セットではフォーカスがドラムにピシッと合わされ、
オーディオ的快感が得られるほどの好録音と言えよう。
しかし、ダニーロのピアノは音の鋭さにやや欠けるように思う。
ラテン系のピアニストということで期待過剰な面はあるかもしれないが、
バシバシ叩くロイに対抗するには、もう少し鮮やかな音色を望みたい。
 ところが後半のライブ・セットに入ると、ピアノの音が輝いてくる。
その分ドラムが少し引っ込んで、トリオとしてのバランスはこちらの方が
まともな印象を受けた。
 肝心の演奏だが、三人個々の技量についてとやかく言うことはない。
結局はトリオとしてのまとまり(完成度)が果たしてGDにふさわしいか、
という点になろうが、これにはかなり不満が残る。
やはりドラムは先頭に立つのではなく、後ろからフロント陣を煽りたてる
存在であって欲しい。
 評点は前半が三つ星、後半が四つ星でトータル三つ星半とした。

評点:★★★☆(三つ星半)

STEP 片桐俊英


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  制作者:片桐俊英  メールはste p@awa.or.jpまでお願いします
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